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テレビを見ていましたら、ある漁港に新しい漁港施設をつくるという名目で補助金が下りているのですが、実はそこにつくられているのはヨットなどを泊めるマリンパークとレジャー用の船が着けられる施設なんですね。漁民の人たちにテレビ局の取材記者が聞いていますと、つくられた場所は実はアワビとかエビとかの非常に良好な漁場で、自分たちはそんなところにつくってほしくなかったんだ、と言っている。だけども、その施設はそこの漁民の生活のためにという名目でつくられているわけですね。
反対しているのは一部の人間だろうということで、高度成長期からずっと繰り返されたような同じようなことが、今日現在も起きている。これのどっちの意見が正しいのかどうか、これだけの情報ではいまの私にはなんとも言えませんが、そういう悲喜劇が一方で起きてきているわけです。例えば、山間の、1日に数人しか行き交わないようなところに何億もかけたコンクリートの橋が架かるとか、そういうおかしな例というのは地方地方にたくさんある。もちろん、どの地方の、どんな立場の、どんなに少ない人達でも、自分たちが豊かになりたい、幸せになりたいということを主張する権利があり、地方にいると、道は欲しい、新幹線も欲しい、もちろん漁港も欲しい、いろいろあると思います。
それは、もちろんあっていいと思うんです、気持ちとしては。けれども、それをみんなが言いたてたのでは、この国はパンクしてしまうわけです。じゃあ、その時に何を、どういう形で、どういう順番で、どれが本当に必要なのか、というようなことを決めるのを、どういう形でやっていくか。ここには政治的な力が必要になってくるわけですけれども、その判断をやはり誰かに今までは預けてきたんだろうと思うんです。
その誰かというのは、いろんなところがあると思います。そういう判断を預けてきたものが、私たち一人ひとりに問われる問題になってくるということが、実は地方分権ということなんじゃないかと思うんですね。テレビなどを通して見ていると、何ておかしなことをしているんだろうなって思うけれども、その地域で話しを聞いてみれば、それなりの主張はもちろんあるんです。だけれども、国の財源だって地方の財源だって限りがあるわけですから、それぞれの主張を擦り合わせて、引っ込むところは引っ込む、出すところは出す、というようなことの順番を決めたりしていかないといけない。しかし、なかなか、そこのところがうまくいかない。
補助金を出すほうは、当然お金を出せば誰だって文句も言いたいし注文もつけたいのは、当たり前ですね。それは私たちの個人的な関係から言ったって同じことだろうと思うんです。だから、もらっている限りは何か言われても仕方がないわけで、そこのところからどう自立するかは、本当にたやすいことじゃないと思う。そういった矛盾をどういうふうにクリアしていくかは、実はとっても大変ですね。今、私はとりあえず直接そういう立場にないので、こういうことを言っていますけど、その立場に立ったら私自身も本当にどういうふうに判断していいか、大変悩むだろうと思います。でも、地方分権というのは、そういうことを判断し決断していくことの連続になるんじゃないか、という気はするんですね。だから、私は地方分権というのはイバラの部分がずいぶん大きいんじゃないかという感じがするんです。

 

 

 

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