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とたくさんの生きもの、もっとほんとうにそのときのにおいが、音が、風がどういうふうであったかということを書き留めながら、そこで大学ノート3冊ができあがりました。

もうおわかりでしょうが、なぜ八ヶ岳に住むようになったか。それは、東京では、子どもを育てられたように育てることができなくなったからです。ちょうどそのころ、ぼくはやや売れてきましたし、どうしようもない。そして、育てられたように育てる。つまり、川、山、森、そのほかいろいろな生きものたち。それから冬、夏、そういう気候の厳しさ。そのようななかで、細胞全部で自然というものと遊ぶ、育まれるという体験をさせたかったから、八ヶ岳に住みました。それが、いまから22年前の話です。

これから本番なのですが、ほとんど時間がありません。(笑)

そこで、なにをやってきたか。それは、雑木林をつくってきました。つまり、いまの日本の森のように、木材工場と見立てた森ではない。かつて、とても豊かに、生きものたちがいきいきといた、そして人ととても仲がよかった雑木林をつくってきました。たくさんの種類の木。みなさんのふるさとには、どれだけぼくのところと共通する木があるかな。ちょっと木の名前を挙げてみると、シラカバがいっぱいあるのです。ここにはないですね。あれは標高1,000メートル以上、1,200、1,300メートルになるとありますから、まずシラカバがいっぱいあるのです。それから、カエデが13種類あります。いろいろな種類があります。たとえば、コミネカエデ、ハウチワカエデ、いろいろなカエデがあります。それから、ヤマボウシもあります。ヤマボウシはこちらにもありますかね。それから、ツリバナ。ちようどいまツリバナが赤くなってきています。ピンクの、赤い花。なぜツリバナというかというと、実がツルンと下がるのですよね。そして、真っ赤な実が花のように開くのです。いま開きはじめました。それが花のように見えるところから、ツリバナ。それから、リョウプがありますね。それから、アオハダがありますね。名前を挙げていくときりがないのですが、それからたくさんのヤマザクラがありますね。それから、クリがあります。ミズナラがあります。こちらでいうとコナラですね。

そのように、ほんとうにたくさんの種類。低いところの木と高いところの木のちょうど狭間なものですから、たくさんの種類の木があります。それをみんな植えてきました。

それから、きょうはご婦人方が多いので、一つだけ、もしかすると参考になると思います。山に行ったときに、後にも先にもあんなにかみさんに熱心に頼んだことはないのですが、「これはお願いします」と頼んだことが一つあります。それは、まだ子どもが小さいときでしたから、幼稚園の子どもと手をつないで歩いていて、川を歩いていて、森を歩いていて、田畑を歩いていて、「ヘビを見ても、ミミズを見ても、クモを見ても、『キャーッ』といわないでくれ」と頼んだ。ぜひこれは、もう子どもが大きくなってしまった方は、孫のときにそれをやってみてください。これだけはお願いしたい。

つまり、どういうことかというと、お母さんと子どもというのは、お母さんが一つの実。一つの実が大きくなって、月満ちて、二つの実になります、身体になります。それが子どもですね。私はいま60歳になりましたが、ふといまそんな話をして、おふくろのことを思い浮かべるとキューンときます。おふくろと子どもというのは、いくつになってもそうです。いわんや、まだ生まれて何年もたっていない子どもが、いっしょに歩いていて、お母さんがミミズを見て「キャーッ」といったら、子どもは「ギャーッ」となりますね。これが3回、4回、5、6回続いたら、もうすっかりミミズを嫌いになりますね。

お父さんはどうでしよう。ぼくがいっしょに歩いています。クモを見てお父さんが「キャーッ」といったら、子どもは、「なんだ、この親父は。だらしない男だな」と思われてしまう。(笑)お父さんというのは、悲しいけれどそんなものなんだよ。

ほとんどの自然に対する感性、どのように自然とつきあうか、どのような感じを受けるかというのは、お母さ

 

 

 

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