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早く親子別々に寝るようにしなさい。そして、夫婦関係、夫婦生活を早く元通りに復元するように」ということが書いてある本がたくさんありました。いまはどうでしよう。

ところが、わが家では、またもう一つ厳しい家訓で、「子どもというのは3年間、3歳になるまで川の字になって寝なさい」というのですよ。つまり、お父さん、お母さんのあいだに子どもを入れて、3本川になって寝ろと。ここにいらっしゃる方でも、ちょっとお歳を召した方はほとんどそうですよね。だいたいがベッドなんてありませんでしたものね。お布団を2枚敷いて、真ん中に子どもがちょうど割れ目のあたりに寝てね。(笑)だいたいそうやって育てたものです。舐めたり、いっしょに泣いたり笑ったりしながら。

どうしよう、どうしよう、先生方は全部ちがうことが書いてある。ある日、かみさんの顔をじっと見て、「おまえさん、おれが好きかい」と聞いたら、かみさんはびっくりしましてね。「浮気でもしたんですか」といってね。(笑)夫婦喧嘩もそうですが、親子喧嘩もそうですが、夫婦というのもあまりまじまじと顔を見合わせて話すことは、あまりよくないですね。恋人同士のときというのは、顔と顔を、目と目を合わせて、目の奥の奥まで見ながら、絡めるようにしながら会話をします。そして、いろいろなものが得心して、この人と死んでいこうと思ったら――死んでいく話ばかりするけれど。(笑)そうしたら、あとは、こうやって向き合っていたものが、生きていく方向に向かってこのようにして会話をしながら生きていくように思うのですけれどね、夫婦というのは。ところが、そのときだけは向かい合って――これはみんな真似しないように。あまり向かい合って話をすると、「好きかい」、「好きだよ」、「だけど、やはり別れよう」とか、だいたい悲劇的な方向に進んでいく。(笑)

そうではなくて、冗談ではなくて、「おまえさん、おれが好きかい」というと、「好きよ」、「まあまあ」、「まあまあどころか、とても好きよ」、「おれもおまえさんのこと、とても好きだよ。ぜったい好きだよ」と。それで、「おまえさん、自分のことは好きかい」、「好きよ。かなり好きよ、自分のこと」、「おれも恥ずかしながら、とても好きなんだ、自分のこと」と。「だったら、もう決めよう。ぼくのような、きみのような子どもになってほしい。つまり、ぼくが育てられたように、きみが育てられたように、育てようじゃないか」ということを話し合いました。

あたりまえですよね。みなさん、そうやっていらっしゃるかもしれませんが。いま風の子育てなどというのは、あるわけがないので、むかしから、戦国時代も、縄文時代も、もっといえば類人猿の時代も、みんな同じように子どもを育ててきたわけで、子どもを育てるというのはいまに始まったわけではないのです。

いま風の子育てというのを、一つの例を挙げれば、いま東京では――福知山ではどうでしょう。いわゆる有名幼稚園に入れるための塾というのが大儲けしています。親たちも夢中で、2歳、3歳から子どもを塾通いさせています。それはなぜか。いま風の子育ての典型だね。つまり、子を思う親心。その子に幸せになってほしい。どういうふうに。人よりも幸せになってほしい。ご近所よりも、まちじゅうでいちばん、だれよりも、人よりも幸せになってほしい。そのためにはどうしたらいいか。いいところに就職させる。そのためにはこういう大学。そのためにはこういう中学。そのためにはこういう幼稚園に入れるために、がんばろうね。

そういう就職口ってどこでしょう。たとえば、野村證券。(笑)日興證券でもいいか。ミドリ十字とか、厚生省とか、いろいろありますが。20年後、その子がおとなになったとき、どうでしょうか。いまいった会社というのは、半分はないでしょうね。時代がまったくちがいます。20年後はだれも予測できません。ぼくの20年でさえそうだもの。これからの20年、だれも予測できない。では、なにを教えたらいいか。決まっていますよね、そうです。

そして次の日、借家の庭先に穴を掘って、本を燃やした。ちがうよな、おれはこうだった。ちよっと待て、いま話したことを全部お互いにノートをとろう。それで、どういうふうに育ててもらったか、どういうふうに育て

 

 

 

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