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八ヶ岳、八ヶ岳とぼくがテレビでいっているから、八ヶ岳という山があるのかとお思いの方が多いかと思いますが、八ヶ岳という山はありません。八ヶ岳連峰という山脈があります。そのいちばん高い山が赤岳といいまして、それが標高2.899メートル、約3,000メートルです。高い山です。そこの真南の標高1,350メートルに、ぼくはいま住んでいます。想像してみてください。その真ん前に、やや南やや東に見えるのが、富士山です。むかし、500円札に富士山が印刷されていたでしょう。あれが、まさにわが家のあたりから見た、まさにシンメトリーのきれいな富士山が真ん前に見えます。それは日本でいちばん高い山。そして、目をちょっと右に転ずると、南西のほうにずっと拡がっている南アルプス連峰が見えます。そこに、日本で二番めに高い山、北岳という山があります。ですから、ぼくの家から、日本でいちばん高い山と、二番めに高い山が見える。そういう非常にぜいたくなところです。そして左側、東、そこから太陽が昇ってくるのですが、いつも毎朝そこに手を合わせるのですが、「座る団十郎」といわれた金峰山のある秩父連山が見えます。そして、真後ろ、北側には赤岳がいます。つまり、日本有数の山々に抱っこされて、ぼくは1年間の半分をすごしております。

そういうロケーションということを頭に置いておいて、八ヶ岳とぼくとの話をします。どうぞこれから先はみなさん、ご自分のご近所、自分の好きなところ、どんどんイメージを拡げていって、来年どうしようとか、5年後どうしようというレベルではなくて、子どもの、孫の、ひ孫の代にどうしようかというくらいのことで、おおらかに考えてみてください。

なぜ八ヶ岳か。私は、この世界、この歳ではめずらしく、本名で仕事をしています。芸名ではなくて、柳生博というのは本名でございます。講談などで有名な柳生十兵衛とか柳生但馬守とか、あれは私の遠いご先祖さんにあたるのですが。古い家で、たくさんの家訓がありました。いまでもあるのですが、連綿と続いている。そのなかの一つに、「13歳になったら旅に出なさい」というのがあるのです。13歳、いるかな、いそうだな。中学2年の夏休みになると、家を追い出されるわけです。どこか旅に行きなさい。私の親たちも、その前も、その前も、その前も、私の子たちも全部それをやっています。つまり、13歳の7月25、26日に出て、1か月間帰ってきてはだめですよと。いまのお金にするとだいたい3万円くらい、親からもらいましたかね。どこでも好きなところに行きなさい。かなり厳しいです。ぼくが最初に行ったのが、じつは八ヶ岳だったのです。

なぜ八ヶ岳に行ったか。先ほどいいましたように、日本の真ん中にあったから。ただそれだけの理由で八ヶ岳に行きました。そして、毎日そこは開拓の方たちがご苦労なさって開拓して、ちょうど終戦後何年もたたないころでした。大陸から引き揚げてきてくださった方が開拓してしていく。すさまじい労働のなかで、みなさんがんばっていたところです。そこに行きました。毎日、毛布にくるまって、森のなかで寝ていたのです。つらかったですね。中学2年ですからね。それはまあいいや。

そこでなにを学んだか。じつは、そこで学んだことが、ほとんど私のいま仕事をしている、そしてこうやってみなさんと社会生活をしているいちばんの根っこの部分が、そのときにできました。

考えてみると、中学2年というのは、オムツを替えながら育てた、おっぱいをあげながら育てた親たちにとっては、まだねんねですよね。じゃりんこです。だけど、考えてみるとほとんど、中学2年のときにぼくが考えていたことが、いまと同じようなことを考えていましたね。子どもってそういうものだといつも思っています。ただ、表現の方法とかバランスなどは非常に悪いけれども、ほんとうに根っこの部分というのは、だいたい中学2年、3年あたりでできあがっていく。そしてむしろ、私たちおとなよりも、もっとピュアに熱く哲学をしているというときなのでしょうね。

なにを学んだか。たった一つ、いちばん大きなことですが、学んだのは、わが家の家訓でいちばん厳しい家訓がありました。それは、「比較をするな」という家訓です。人と人を比較する。ここにいらっしゃる方、「あそこ

 

 

 

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