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なかの3分の2は東京で仕事をこなしています。あとの3分の1は世界各地、それもかなりの僻地に行きます。だいたいぼくは撮影に行くときは、いつもテントをもって、たとえばボツワナ、カラハリ砂漠からやったときは、テントのそばをゾウが歩いたり、ライオンが歩いたりしているのですよ。(笑)すごいですよ、2、3メートルのところをハイエナが歩いていたりね。だいたいそういうヤバイときは、いつもかみさんをいっしょに連れていくのです。「死ぬときはいっしょよ」なんていってね。(笑)そのようにして、番組をつくっております。

その八ヶ岳で、1年のうち半分も住んでいて、なにをしているか。じつはその話もきょう、これからあとは八ヶ岳の話をずっとします。じつは、「生きもの地球紀行」とか、そのような番組というのは、みなさんここにいらっしゃる全部の方は、東京のNHK放送センターでつくっているとお思いですよね。たしかに、あそこで最後の仕上げはやります。でも、ほんとうの根っこの部分、なにをいいたいか、どのようにいいたいか、どのようにやりたいかという、肝心要の部分というのは、じつは東京でつくっていないのです。福知山よりもはるかに小さな、人口4,000何百人の大泉村という、八ヶ岳の南麓でつくっています。

これもぜひ覚えておいてください。文化とか、芸術とか、もっといいますと哲学とか、ほんとうに人間が生きていく魂の部分、いちばん肝心な部分というのは、東京でも大阪でもニューヨークでもパリでもロンドンでもないのです。そこには、そういうものをつくる人は、またメッセージを送る人は、だれもいない。これはいま実感ですね。すごい人は大都会にはいません。だいたいが、大都会からちょっとはずれた、そして人間以外の生きもののいっぱいいるところに、人間以外の生きものに抱っこされて、そのなかで育まれている人たち。そこから、文化、芸術、哲学というものはメッセージを送られています。これだけは覚えておいてください。

どうしても、たとえば福知山であったり、綾部であったり、舞鶴であったり、丹後半島の根付の部分であったり、そういうところにお住まいになっていると、中央ではない、中心ではないということがふと頭をよぎることがあるかもしれません。それは、経済生活の中央はたしかに大阪であり、東京であり、ニューヨーク、パリ、ロンドン。証券市場も全部そこにあります。そういうところかもしれませんが、そうではない、そんなものはこれだけのものです。ほんとうに肝心な部分というのは、そこにはない。まさにこれから先、ご自分の周りにどんな川が流れていて、そしてどんな生きものたちがいてということを考えながら、ちょっとぼくの話を、あと40分ありますので、急いで、きわめてぼく個人の話をします。

八ヶ岳に行ったことのある人、ちょっと手を挙げてみてください。ありがとうございます、そんなにいらっしゃった。圧倒的多数は、八ヶ岳なんか知らない、行ったことのない方が多いですよね。(笑)じつは、八ヶ岳にいま、八ヶ岳クラブというものが――この本のタイトルにもなっているものが、あるのですね。きょうたぶん、600人から700人の方たちが、私がつくってきた林をいま歩いてくださっているはずです。そのなかに、だいたい2割くらいは神戸ナンバーがあるはずです。1割くらいは京都ナンバーがあります。それから、福井ナンバー、奈良ナンバー、四国各県、九州のナンバー。だいたい西日本の方たちが、いまとてもたくさん来てくださっています。もし機会がありましたら、ぜひみなさんいらしてみてください。

八ヶ岳というのは、みなさんからみると、こう北海道がありますね。ここから本州がずらっとあります。ここに九州、四国がある。みなさんのいらっしゃるところは、この本州のなかのずっと南の西のほうの、どちらかというと日本海に近いほう。かつての表玄関ですね。かつての文化の表玄関が、まさに日本海でしたね。いまはなぜか、東京とか大阪とか名古屋とか、そちらのほうがやたら表玄関のようにみえていますが、そうではない。先ほどいいました民度、文化というものでいうと、はるかにここは色濃く、そしてひだひだの多いすばらしい文化がこちら側にあります。青森からくし刺しにしまして、下関からくし刺しにしまして、ちょうどぶつかったあたりに八ヶ岳があります。

 

 

 

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