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そしていま、ぼくらはそれをやっているわけですが。そういう話をおもしろおかしく具体的に書いた本なのですが。

考えてみると、いま、そのような学問ってないのですね。たとえば、大学で、うちの息子は林学部を出ました。まさに林の学問と書いて、林学部。ところが、そこで教えている中身というのは、どうやったらたくさん儲かるか。ようするに、どうやって木を植えて、森を木材工場として、そこから生産性を上げるかというような学問なのですね。農業もそうです。どうやったら、あの瑞穂の国のわれわれの田んぼを、米工場として効率よくそこから収益できるか。そのような学問なのですね。

学問。それも、どうやったら儲かるか、どうやったら合理的に世の中が回っていくか。そこの大前提にある座標軸というのは、縦軸に経済があって、横軸に銭があって、そのなかで右往左往していく論理。そういうことが――それは非常に荒っぽい言い方ですけれどね。全部が全部そうであるわけではないのですが。そういうことが大勢を占めてきて、現在にいたってしまった。

最初、こむずかしい話から入ってしまいましたが、このあたりでやめましょう。それをちょっと頭のなかに置いておいて、そのあたりの世の中をはかるものさしをちょっと取っ払って、どうぞご自分のほんとうに魂の部分がどうあるかというような話を聞いていただきたいのですが。

このあいだ、私は、朝NHKでやっている番組で、「生活ほっとモーニング」というのがありますね。あれをだいたい1か月に1回か2回やらせていただいているのですが、ぼくがやるときは、長寿の食卓。お年寄りたちがどんなものを食べているか、そして毎日どのような生活をおくっていらっしゃるか、そこから学ぼうという番組をやらせていただいています。

それ以外でどうしてもというので、だいぶ前になりますが、かみさんを、私の妻も番組に出せという命令が偉いさんからありまして――そういう投書がいっぱいあるわけですね。「こういう人を出してほしい」、「こういう人でやってほしい」と。それで、土曜日の枠で加賀美(幸子)さんという人がいますね。女性のアナウンサーで、ぼくが大好きな、私のすぐ近くに、八ヶ岳に住んでいるのですが。その人がどうしてもというので、かみさんを口説きまして、何十年ぶりにかみさんがテレビに出ました。

じつは、うちのかみさんというのは、かつてスターでね、ぼくがヒモだったのですが。(笑)俳優座の養成所というところがありまして、そこで同期。もちろん歳はちがうのですが。ぼくらの先輩に市原悦子さんとか、伸代達矢さんとか、そういう人たちがみんないる。いま、ちょっと年寄りの役者さんたちというのは、だいたいが俳優座の養成所を出ているのですけれどね。そのとき、彼女はもう養成所を出るか出ないかで、すぐにスターになってしまって、けっこう稼いでいる。ぼくは、ぜんぜん稼がなくてヒモをずっとやっていたのですが。加賀美さんというのは聞き上手でね、「柳生さんに奥さまはどうやって口説かれたんですか」という話になったわけです。「そんなバカなこと、やめろ」といったのだけれど、かみさんが「恥ずかしながら」といって話したことが、じつはたいへんな反響を呼びまして、その番組をつくれということになったのですが。

それはどういうことかというと、かみさんが16歳のときでした。高校2年生ですか、高校時代から来ていました。ぼくは20歳をすぎていましたが。ぼくに、「きみとこういうふうにして死んでいきたいんだ。だから結婚してくれ」と……。だいぶうなずいていらっしゃる。(笑)ご覧になった方が多いかと思うのですが、そういう番組をやりました。

つまり、死んでいく話ばかりして、口説き落としましたね。まだ嫁さんのいない男性は、これはわりといい手ですよ。(笑)「きみとこういうふうにして死んでいきたいんだ。だから結婚してくれ」、「きみと手をつないで死んでいきたいんだ。だから結婚してくれ」。ただただそれだけをいって、そのうちだんだん催眠術にかかったよ

 

 

 

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