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が考えられますか。

堀越 機関委任事務の廃止と同じことを、自治体はこれまでにも経験しています。そのとき何が起こったかを考える必要があります。実行するにあたっての基準が国で決まっていたのでは、せっかくの自治体の意気込みが肩透かしに終わってしまいます。例えば介護保険の問題にしても、金は自治体が用意するが、基準は厚生省がつくるなどの問題があります。やはり事務が自治体に移るということだけではなくて、権限も移るのでなければ意味がありません。

篠崎 この問題に関して、生活にどのような影響があるのか住民自身の理解は進んでいるのでしょうか。

中原 十分には理解していないと思います。よく県や市町村の人に事の次第や今後の成り行きについて取材でお聞きしますが、物ごとがうまく進んでいないと、つい国が…、県がどうのこうのという話になります。そういった部分を早く解消するためにも、地方の財源と機関委任事務廃止の問題はじっかり確立してほしいですね。

篠崎 次に地方財源についてですが、今度の勧告では地方税財源の充実・確保について中長期的な課題とされていますが。

増田 今回の勧告で一番がっかりしているのは、分権の本質的な部分と非常に深く関係している税財源への踏み込みが足りないことです。国からの補助金は使途もかなり限定されて、地方がその使い方を決められないようになっていますが、それを地方の責任において重点的・効率的に執行できるような仕組みに変える要があります。地方の税財源を充実させて、その執行権限を持たせることにより、職員も責任を持ってその使い方を考えるようになり、良い発想も生まれてくると思います。

篠崎 勧告では、補助金の縮減には具体的で、税体系そのものには具体的ではありません。その点は市町村の立場からいかがですか。

小笠原 権限を委譲されても財源が備わっていないのであれば、動けません。自主財源の確保は欠かせない問題です。

篠崎 財源の問題でも、今回どこまで具体的になっているのか。一方で、財源を自治体に移していくことで本当に運営できるのか。自治体の能力についてはどのようにお考えですか。

小早川 いわゆる受け皿論の問題ですが、推進委員会のスタンスとしては、それは致命的な問題と考えていません。これまで国の関与が必要だといって手綱を引いてきたわけですが、実際は自治体で処理されてきています。受け皿論は分権を妨げるための口実として使われてきました。ただし、中央・地方を通じた行政改革の観点は必要です。

篠崎 これからの分権社会では、住民と自治体の活動がどう有機的に機能すると思われますか。

堀越 これまで住民と自治体がパートナーを組むといった感覚をもった首長や職員はあまりいませんでした。今後の高齢社会を考えると、市民の力をつけて、住民と自治体が共同作業をすることが重要です。それは地域間の不当な格差をなくすためにも大切です。

篠崎 先頃、東京で開催した地方分権のシンポジウムで、各党の政策責任者はみな受け皿論を語っていました。その中で共通していたのは、市町村の合併問題です。この点については、どうお考えですか。

小笠原 私は消極的な立場です。確かに財源の確保は欠かせませんが、そのほかの能力は十分にあると思います。

篠崎 この問題に関連して、当然地方自治体職員の意識改革も間われていると思いますが。

増田 県行政を担当する者として、住民から「顔が見える行政」を常に心掛けることが大切だと考えます。職員がそれぞれこのことを心掛け、そのうえで物事を考え行動していくことが、県民の皆さんが真剣に地域のことを考えることにつながるのだと思います。つまり、地域をどのようにするかということを、常に住民と共に考えていくということです。また、分権によって一人ひとりの県民の生活がどう変わるのか、分かりやすく住民にかみ砕いた説明をするという実際の作業を通して、職員にも能力が備わってきます。こうした過程を経て、地方分権、正確に言えば「地方主権」ということが現実の姿として見えてくると考えています。

篠崎 まだまだ議論は尽きませんが、時間ですので終了させていただきます。それぞれの立場で、今後のご活躍を期待いたします。

 

 

 

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