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ませんので,来る9月29日に東大の山上会館でワークショップを行います。1日かけまして二つのテーマ,一つは先進安全船,それと情報技術(CISS)この2点に関しまして集中的に議論を行いたいと思っておりますので,また具体的になりましたら御案内を差し上げます。

 

ま と め

 

○宮 崎  色々議論がこれからというときに時間が足らなくなって,私も大変残念な思いがします。最後に15分,何か締めくくりをやれというお話だったのですけれども,すでに閉会の時間の迫まり,会場の都合もありますので,それをうんと省略いたします。

昨日は3人の先生方,きょうは4人の先生方から大変有益なご講義と,会場からの皆様の大変熱心なご討議を賜りましてまことにありがとうございました。締めくくるということはいたしません。それぞれの講師の方から素晴らしいお話を承って,それは今世紀の学会から次の世紀へのメッセージとして若い年代の皆様方の胸の中にしっかりと刻み込まれたものだと考えます。

ただ,ちょっと7,8分の時間を頂きまして私なりの思いを述べたいと思います。

昨日は元良先生からも大変素晴らしいお話がありました。また,きょうは星野社長からの技術開発についてのお話がありました。そういったお話を伺っておりまして,造船業の先輩方というのは本当に偉大であったなと思います。何もないところから技術を立ち上げて,そして一流の軍艦,一流の船をつくるということを実に短期間に達成しております。敗戦によって日本の造船業は特に海軍という大きなスポンサーを失ったわけであります。私が大学に入りましたときに,山県昌夫教授から,「海軍なきところに造船なし。商船では大きな産業は作れない。諸君たち,一体どうするか」そういう大きな問題提起がございました。しかし,学生の身でどうするかと言われてもどうしようもないんで,とにかく勉強はしなければいけない。一生懸命やろうと。そういうことを考えたことを覚えておりますが,そのころ先輩たちは学がリーダーになって,学・宮・産の研究体制を作りまして,品質のいい,安くて納期の正確な船を造るための懸命の努力をされたわけであります。

その結果,1956年には世界一の造船国になり,1966年には世界の50%をつくるようになったのです。

私の第一のキーワードは「造船の先輩方は偉大であった」ということです。当時の著名な評論家大宅壮一が,じゃんじゃんドルを稼いで隆盛をきわめている日本造船業を評して,造船業は中進工業国の先端産業であるという決め付けをされました。実はこの言葉はその当時から見るとまことに簡にして要を得て造船業の本質をついた言葉でした。マスコミはすぐこれに飛びついて現在も同じ考えから脱していないわけでありますけれども,我々造船に携わる者にとりましてはまことに大きな課題で,日本は先進工業国になって豊かになると,労働集約の造船は成り立たなくなってフェードアウトするのだと。さあ,俺達は何をなすべきかというのが我々が学校を卒業してからの大きな課題でありました。

しかし,現実には造船に携わる一人ひとりの,このダイナミックな巨大な構造物に対する愛着,情熱,そういったものが事業の活力となって幾多の困難をのり越え,フェードアウトどころかNo.1の地位を保っている。折しも,1970年代後半から大きく発展したエレクトロニクスを駆使し,製品並びに製造過程を根底から変えて生まれ変わらせた。これが大きかったと思います。そういった色んな理由,これは恐らく将来色々な産業の歴史の中でも大きな特徴を占めるのではないかと思います。

この10年間でさらに若い人たちが造船CIMSの開発にチャレンジしております。時間がありませんけれど,ここだけは私はぜひ言いたいと思います。コンピューターの製品・製造への適用において,彼らが達成したレベルはいかなる産業,例えば自動車や航空機,そういうものに比べてはるかに超えたレベルであります。他分野の人達と色んな議論,シンポジウムをやりますと,彼らは大体白けます。造船はそんな難しいことを,そんな高いレベルでやっているのかと。これは現実にはもう既に工場で動き出しておりまして,設計や工程管理の分野ではシミュレーションを自由自在にやって最適化する。また,造船現場ではあの巨大な構造物の中をロボットがコンピューターからデータを拾って,そして無人で粛々と昼夜を分かたず工事を進めるということが現実に展開されたり,されようとしております。

こういうことで,大宅壮一の仮説はもろくも崩れ去りまして,我々はまだ健在である。これからまた学会の2世紀目に飛躍しようというわけであります。

私の第2のキーワードは,「若者の英知とエネルギーが造船を救い,未来を切り拓く」ということであ

 

 

 

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