そういうものが余りクリアに反映されない仕組みになっている。そういうことで,こういうお話を伺ったわけです。
○星 野 いろいろと御意見ございましたけれど,技術というのはオープンになったらただになってしまうというか,競争力や格差の価値がなくなる。本当に技術が価値を持つためには,己のものというか,クローズされてなければいけない。最近の世の中を見ると,必ずしもいいものが高く売れるわけではない。そういう点で造船,海運界を見ていますと,例えばデンマークのABモーラーという船会社とオデンセという造船所があるのですが,オデンセという造船所はいわばABモーラーの海軍工廠みたいな,ABモーラーの船を専属でつくっているわけで,ABモーラーという会社が将来どんな船隊整備の戦略を持って海運をやっていくかというようなことを一緒に研究して,先の船を一緒に研究し,そして専属でつくっている。コストダウンの競争だけをやっているところからは生まれてこない新しい技術やコンセプトも出てくる。技術というものが受注のためというか,コストダウンのためにだけ使われるのではなくて,そういう意味でこれからの造船,海運というのは,先ほども申しましたように,ある一つのアライアンスというのか,海運の戦略を立てる人,運用する人,つくる人が一体となる,そういう格好でないと本当にいい技術というものも出てこないし,生き残っていけないのではないかというのが実感なのです。
そういう意味で,ユーザーとメーカーと共同の技術開発をしていかなければいけないのですが,残念ながら造船もそうですけれど,日本の海運には造船以上にビジョンと戦略がないのではないかなと。台湾のエバグリーンの方がよっぽど戦略があるのではないかという気がするのですが,我々の注文主の方に戦略とビジョンがないというのも一つの問題だろうし,そういうのが造船,荷主が一緒にやっていくというところがこれからの課題だろうと思います。そういう点では,宅急便なんていうのは,物流革命としたら,どうしてクロネコヤマトからあんな素晴らしいものが生まれてきたかなと。今後はそういうものが海運,造船の中から生まれてくることを期待しております。
○谷 野(運輸省) 安全と環境の問題が出ましたので,一言。安全の問題は基本的には受益者負担の問題だと思います。環境の問題は,外部不経済といいますか,社会的費用の内部化の問題だと思います。これは原則論です。したがって,受益者負担をどこまで徹底するか,あるいは社会的費用の内部化をどこまで徹底するかというのは,それぞれの国なり,人がどれだけそういう問題について社会的に成熟しているとかということだと思います。
ところが,船は国際性がありますから,それを例えばIMOの場で徹底しようとしてもなかなかついていけない国がたくさんある。これをどうするかといったところがポイントだと思うのです。したがって,そういう問題について社会が一番成熟している国がその技術を磨き,その技術を優位性に結びつけようとしてもなかなかうまくいかないというところにジレンマがあるのではないかという気がします。小山先生がおっしゃっていた保険の問題というのは,一つの仕組みでそれを解決しようとしているものだと思います。これは安全の問題も公害の問題もそうだと思います。
それから,もう一つは,ちょっと観点は違いますが,今度のロシア船の事故でもわかったのですが,事故の原因について船舶が劣悪化しているからロシアに責任があると,こう言った途端に過失責任が発生するわけで,その過失責任は被害に対する補てんの問題にすぐつながっていく。そのときに今回は解決するだろうと考えられるのは,油濁防止基金という国際基金が被害者に対する救済をやり,過失責任は民事訴訟の問題で,例えば基金と船主との問題,あるいは船主と保険屋さんの問題という整理ができているわけです。
したがって,安全とか環境について社会的な認識なり,基準が違う国が存在する中で使う船舶について,安全なり,環境について卓越した技術を優位性に結びつけようと思うと,どうしてもそういった制度の仕組みを国際的な仕切りの中でうまく作っていかないと,きっちりと実現できないのかなという気がします。例えば発展途上国が使う船については,安全や環境保全の観点から本来負担すべき事項について仮に経済的理由から負担し得ない場合には,先進国が負担をして使ってもらうといったような仕組みの問題で,これは国際的基金と同じことだと思います。申し上げたいことは,そういう安全なり,環境問題を経済原則に沿って内部化する仕組みを国際的な場できっちりと整理しておかないと,そういった技術の優位性をうまく活用できないという気がしました。
○平 山(横浜国大) 今までの議論とちょっとかみ合わないかもしれないのですが,実は6月の運動性能研究委員会のシンポジウムで提案をしようと思ったことがありまして,船舶の性能の総合保証というのをやったらいいのではないか。新造船では必ずトライア