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つまずいたりする。

最近におきましては,技術の差によってカバーできる金額があってもその技術を採用しないで,むしろ人件費の安い人間をたくさん乗せた在来船で少々劣悪な運航をしても,そっちの方がコストが相対的に安くなるという風潮が世界の海運の中に蔓延しているのではないかと思います。そういった点で,保険機構をうまく使うということが,いい技術を開発した方にうまく還元されにくい仕組みになってしまったのではないか。その辺をちょっと心配しておりますので,そこが再びいい技術を採用したところにインセンティブがいくような方策というのを確かに課題として考えていく必要があるかと思います。

答えを出すのは難しいけれども,大きな課題であり,間違いない,正しい課題だと思いますので,これは恐らくその実現に向けてのかぎを握っているのが私ども行政サイドだと思いますので,一つの大きな課題としたいと思います。

○小 山  先ほど言葉が足りなかったのですが,保険はもう何百年の歴史ですから,できたときには大変素晴らしいシステムだったのですね。細かいデータを持っていないのですが,保険料は船主のレベルによって決められている。それから,ニューカマーとエクセレントカンパニーとの保険料の差が2倍程度らしいんですね。翻って,そういう良い制度が色んな所に使われていて,自動車保険というのはどうですか。あれはエクセレントドライバーには6割の免除をするといっているわけですから,既に2.5倍の差をつけているわけですね。

それと日本ではそういう制度はありませんが,この間,矢部安全基準課長と話していたら,イギリスに行ったときに中古車を買ったというんですね。安いから中古車を買ったのだけれど,買ってみたら,あの国は中古車の保険が非常に高いんだそうです。安物買いの銭失いというのはこんなものだという話があったのですが,概括的に言うと,船というのはだんだん弱くなるというのは当たり前の話ですから,新技術を使っている,使っていないというようなレベルではなくて,5段階ぐらいで,A,B,C,D,E位に分けて,年をとって手入れが悪いとどんどん保険が高くなりますよというようなスキームは,それだけで随分違うのではないかという,例えばそんな方法があるのではないかと思っております。

○大 坪  どうもありがとうございました。何か会場の方から,安全性に関してご意見ございましたら。

○前 田  今の話の点は私もさっぱりわからない世界ですけれども,こうやって伺っていますと,エンジニアリングの世界とマネジメントの世界とがあって,マネジメントの世界の話をされているように思うのです。マネジメントの世界でやるのは安全とか環境がありますが,我々学会レベルでやるとすると,原理原則のような技術的側面について,例えば安全の問題でもこのごろリスク・アナリシスとか取り入れる時代になっていますし,さらに発展してクォンティタティブ・リスク・アナリシス,QRAとかどんどん進みますけれども,その点の勉強が我々には非常に不足していると思うのです。そういう観点でやるというなら僕は大賛成です。
その場合,安全の話で,この前OMAEという会議が横浜でありましたが,そのとき,安全をテーマに取り上げるセッションがありました。世界はどんどん進んでいるという印象です。同じ安全の考え方でもノルウェーとイギリスとアメリカとでそれぞれ違うというのもわかりました。よくよく聞いてみますと,まず安全はどう考えるべきか,根本はこう考えます,プライオリティーをつけましょう,まず生命を第一に,その次は環境に,その次はファシリティー・ダメージにしましょうと,当たり前のことをまじめに言うわけです。そういうセッションへ行きますと,哲学論争みたいで,式が全然出てこない。その点が我々は物すごく欠けていると思うのです。
哲学論争ができないからヨーロッパ,ァメリカの連中の議論に加われない。そうするとマネジメントはどんどんそっちにとっていかれる。IMOにしろどこにしろ,ルールの話にいく前の段階でそれの下ごしらえができているのに,公式の場に行って初めて我々は気がつくというのは遅れていると思うのです。そうなってくると,その前の段階の議論をいろいろ僕らは勉強し,やるべきではないか。それは学界のレベルの世界であって,業界なり,官なりの公式の場では議論しにくい,その前の段階での話であって,そういう根本的,技術的といいますか,そういう勉強を我々は大いにやるべきではないか。それをマネジメントとしてどう生かすかは,規制するのであれば官の立場であるでしょうし,それをうまく生かすならば民の立場であるでしょうし,利用の仕方はそれぞれの分野が利用すればいいのではないかと,こういうふうに思います。

○大 坪  この話の発端は,基本的に技術力のある所がその技術力を生かせる環境に必ずしもなっていない。きっちり安全ということを念頭に設計,製造された船とそうでない船,メンテナンスのいい船悪い船,

 

 

 

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