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ように高温水を右手に見ると,この断面では南向きの海流が卓越していることになる。

海上保安庁水路部は黒潮に漂流ブイを投入して人工衛星で追跡している。図3に示すように黒潮から出発したブイは黒潮続流,北太平洋海流として北米沖まで東に流れ,カリフォルニア海流として南下し北赤道海流で西に戻る。時計まわりの循環は約3年で一周しているが,多くのブイは黒潮続流や北太平洋海流から離れて南に流れ,北赤道海流に合流している。北緯30度付近での循環の東西断面では南下流が卓越することになり,図1の温度構造と対応している。

水温と海流の関係は古くから知られており,アメリカからヨーロッパに向かう郵便船が商船に比べて航海日数が長い原因が湾流を利用しないことにあることに気づいたベンジャミン・フランクリンは,1770年に温度計で海水温を測定しながら航海することを導入した。一定のコースで航行しても海流によって対地速度が変わる。天文航法のころから偏流として海流を測定してきた。現在は,多くの船では対水速度計と人工衛星航法で評価した偏流を報告している。研究船や観測船には音波ドップラー流速プロファイラーが装備され,白鳳丸では1000mまでの各層の海流が計測されている。また,貨物船やフェリーボートに音波ドップラー流速プロファイラーを取り付けて定期的な海流モニタリングも実施されている。各深度の後方散乱波の強度から,音波を反射するプランクトンの量を推定して生物資源評価に役立てる試みもなされている。船が運航されることで海上気象だけでなく海洋観測が実施される一例である。

白鳳丸では世界最初のチタンワイヤーとチタンケーブルが導入された。鋼線では自重のために9000mを超えると安全率が2以下になるが,強度が鋼線と同じで比重の小さいチタンを使用することで12000mまでの繰り出しを可能にした。温度・電気伝導度・深度計(CTD)は電源供給と信号伝送にチタンケーブルを使用する。図4に1992年12月1日に観測したマリアナ海溝チャレンジャー海淵のCTD記録を示した。世界最深部である北緯11度23分,東経142度35分を含めて3点で観測した。ピンガーで底土10mまで下ろしたが,繰り出し速度は最大でも毎秒1mで10時間近い作業であった。中段の図は温度(T),塩分(S)のプロファイルである。温度下層での昇温を見やすくするために10倍にして同図に示した。5000m付近で極小で最深層11188dbでは断熱圧縮のために2℃も上昇している。温度,塩分,圧力から

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