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船上観測では観測ワイヤーが主役である。8台の主要なウィンチは後部甲板下や甲板上に設置されている。2つのウィンチには鉛直加速度計で検出する滑車部の上下動を補償して対水速度を減ずるスエルコンペンセータが付けられている。観測装置の投入と回収のために,後部作業甲板にクレーン,船尾に起倒式フレーム,右舷に伸縮式ビームがあり,これらを補助する多くのホイストが備えられている。甲板上には90センチメートル間隔で機器固定用ボルト孔があり,特殊なウィンチや各種装置を取り付ける。船底にはマルチナロービーム測深器,生物資源解析装置,音波ドップラー流速プロファイラーなどの音響トランスジューサが取り付けられている。衛星通信,気象衛星データ受信などのパラボラアンテナドームが外観の特徴になっている。

初代白鳳丸は太平洋,南極海,インド洋東部で運航された。船速12ノットでは測点までの移動に時間を取られ,その分研究時間が短縮されるため大西洋の観測の実績はなかった。代船は16ノットにしたが,事情は変わらないことが予想され,同じ手法による世界の海の比較観測研究のために1989年10月28日から1990年3月8日までの130日間の世界一周航海をテスト航海の一環として実施した。

わたくしの専門は海洋物理学で,海流を研究している。海流は密度の異なる海水の分布で生じる圧力傾度力で駆動されている。日常目にする流れと異なる点は空間規模が大きくゆっくりしているために,自転する地球上では北半球では高圧部を右に見て流れる。天気図で等圧線に沿って高気圧を右に見て風が吹くのと同じで,南半球では反対に左になる。深層1000m付近では海流は弱く,したがって等圧面は水平に近い。上層での高圧部は海面が盛り上がり,黒潮では100km程度の間に1m以上の海面高度の差になっている。八丈島では島の南側を黒潮が流れるときは水位が下がることが実例である。海面高度は人工衛星から計測され,表層海流の測定に利用されている。深層で圧力差が解消されるためには海面が盛り上がっている高圧部には軽い海水,すなわち高温な海水がある。

図2に世界一周航海で東京からサンディエゴまでの北緯32度で観測した上層800mの水温を示した。航走中に投下する使い捨ての水温計XBTを使用した。毎秒6mで落下するサーミスターが2本の導線で船上に接続され,海水も導体として利用している。図で表層100mまで一定の温度になっているのは秋に発達した混合層である。その下層で東西の水温を比べると等温線が右上がゆで,西側に高温水がある。上述の

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