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記念講演

海洋科学から海洋工学への期待

日本海洋学会長 平 啓介

 

1 はじめに

 

日本造船学会の創立100周年に際して日本海洋学会を代表してお祝いを申し上げる。日本海洋学会は1941年に創立され,現在の会員数は約2千名で春秋の大会にはそれぞれ約250編の研究発表があり,英文誌「Journal of Oceanography」と和文誌「海の研究」を隔月で発行している。会員の専門分野は海洋物理学,海洋化学,海洋生物学,海洋地学,そして海洋計測工学が主である。われわれの研究活動は先ず海に出かけることから始まり,そのために船を利用するので,海洋学の誕生以来,造船の皆様に支えられてきた。観測船からワイヤーで種々の測器や採集器具をおろし,データやサンプルを収集する。これらは船上研究室で分析・解析され,海上でも観測計画を見直しながら研究を進める。船が現場を離れても観測を継続して長期の時系列を得るために,流速計やセヂメントトラップなど各種の自記記録装置や自動サンプラーを係留する。係留系の設置回収は船が必要である。人工衛星で追跡する漂流ブイも船から放流する。研究船の船底には数多くの音響トランスジューサーが設置され,水深,海底地質,流速,生物資源などの航走観測が行われている。

地表面積の70%を占め,平均水深4000mの海洋は地球環境の大きな構成要素であり,気候形成を支配するとともに,豊かな海洋生物資源の生産の場になっている。人為作用による気候や地球環境の変化が指摘され,その解明のための研究活動が盛んであるが,海洋の観測は不十分である。広大な海洋の観測研究には国際共同が欠かせない。国連組織で海洋学を扱うのはユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)であり,1992年のブラジル地球サミットでIOCは世界海洋観測システム(GOOS)の構築を宣言した。世界気象機関(WMO),国連環境計画(UNEP),国際学術連合会議(ICSU)が協力している。日本,中国,韓国,ロシアの4国は日本海,東シナ海,黄海の海洋観測データのリアルタイム交換を目的として,北東アジア地域計画(NEAR-GOOS)を1996年に発足させた。

21世紀を迎えて人類の存続には海洋の利用が不可欠である。わたくしは海洋における人間活動が高まること,すなわち海洋開発が海洋を理解を増進するために必要であると考えている。その一つとして,海洋空間の利用を取り上げてみたい。

 

2 海洋観測の現場から

 

東京大学海洋研究所は1989年に白鳳丸(図1)を建造した。全長100m,3987トンで研究者が35名乗船できる。1967年に建造された初代白鳳丸の運用経験に基づいてわたくし達の研究に最適な船にした。海洋物理学,化学,生物学,地質地球物理学,水産学に関する全国の海洋研究者の提案に基づいて3年計画を立て,いくつかの研究グループが乗船して共同研究を実施している。多目的船のため広い研究室が用意され,気象大気成分観測室,アイソトープ実験室,クリーンルーム,化学生物実験室,重力計室,低温実験室など用途別に10の研究室がある。持ち込まれた機材は研究機材倉庫や甲板上のコンテナに収納する。作業甲板,倉庫と研究室はエレベータで結ばれている。海洋研中野キャンパスや全国の研究機関から鉄道コンテナも含めると毎航海約20台のトラック輸送が行われる。一日がかりの積み込み,積み卸しを軽減するために埠頭に研究倉庫を持つことがわたくし達の希望である。

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