日本財団 図書館


いう仮説を立てる。そうすると,それは化石を探して掘り出していくしかなく,そうやってそれが本当に正しい資料なのかどうか収集・批判によって検証していく。すなわち実験・観察に代わるものとして,収集・批判というものが歴史科学にはあります。

もの造りの科学ではどうかというと,この両方ともうまくいきません。コレクションはします。仮説を立て,造ってみてそれが人々に使われるかどうか・喜んで受け入れられるかどうかという選択,言い換えれば自然淘汰ではない人間による淘汰という行為を経て,もの造りの科学の正当性が保証されてくるという性質を持っています。私は,これを科学と呼んでもいいのではないかと最近思うようになりました。実験科学は,実験・検証できないものは科学ではないといって歴史科学をおとしめたのですが,それはとんでもない自然科学者の思い上がりで,実は歴史科学は大変立派な科学です。同じように,実験・検証できず役に立つかどうかだけという工学は科学ではないというのは,これまたとんでもないことです。実際にそれを機械として造ってみて,世の中の人が使うかどうかということによって正しいかどうかを判断するやり方が,実験・観察より位が低いということはあり得ません。構造は皆同じで,やり方が違うだけです。
選択によって正しさを検証していくのですから,もし許されるなら,実験科学・歴史科学と並ぶ第3の方法として選択科学という名前をつけたい。もの造りの科学は,確かに科学的な構造を持っています。基本的にはニュートンの計画したような構造の中で,しかしニュートンのやり方とは違う。人々の社会が前提となって,社会が選択するかどうかによって正しさを検証していくことが許される一つの科学として,選択科学を樹立する。実験科学は歴史を作る条件を提供し,歴史科学は作られた歴史であり,選択科学は歴史を作っていく行為であるというように,実験科学と歴史科学の中間に選択科学はあるのです。

 

8 おわりに

 

このように選択科学という第3の科学を作ることによって,現代の大問題である環境問題や,知識の爆発によって教育ができなくなるといった問題に対応できるのではないか。これがもの造りを科学にすべきだということであり,まだまだ未完成ですが,一般設計学とはそういうものを目指しているのです。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION