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は,自然対象を見て存在物についての概念を作ります。肉を見たら肉概念ができてくる。ものを見るとこのように実体に関する概念が頭の中に浮かび上がってくる。次はコレクションで,新鮮な肉・腐った肉・こちこち肉・形は似ていますがリンゴ,リンゴは違うから排除するというように,肉に関するコレクションをします。コレクションとは集合のことです。このとき今作った肉集合に一つの分類を入れます。分類も概念の一つで,食べられるもの(T1)は新鮮な肉しかなく,腐った肉や硬くなったこちこちの肉は食べられません。もう一つの抽象概念は時間変化(T2)です。時間とともに新鮮な肉はいずれ腐るかこちこちになるし,腐った肉はますます腐り,こちこち肉は固まっていますから変化しない。このような分類ができると,この抽象概念を使って実際に実体概念を説明することができます。すなわち,食べられてかつ時間とともに変化するものは実は新鮮な肉を表すというように,抽象的な世界で概念操作をすることによって実体を論じることができます。抽象概念を操作する能力を持っていることが私たち人間の大きな特徴なのです。

そうなると次は概念の体系が出てきます。この肉集合では,実は意味のある分類は2つしかない。T1は食べられる・T2は変化する,この2つです。食べられてかつ変化するものが新鮮な肉であり,食べられないで変化するものが腐った肉で,食べられなくて変化もしないのがこちこちになって乾いてしまった肉というように,ここに一種の体系としての,数学的に言えば集合に対してトポロジー(位相空間)が与えられる。我々の概念・我々の頭は実はトポロジーであることがわかります。つまり我々がいろいろなことを考えているのは実はトポロジーの操作をしているのです。その操作の仕方によって理学的なものになったり工学的なものになったりします。理学的なものとは関係の精緻化ですから,分類をどんどん細かくしていけば,どんどんトポロジーは精級になっていき,2つのものの違いをどんどん精度よく明らかにしていく。これはまさに分析的な行為で,すなわち理学です。

一方,工学は違う構造を持っています。図2のような分類を導入すると,新鮮な肉・腐った肉・こちこち肉の領域以外に物がない領域ができてしまう。物がない領域とは,それは食べられてかつ変化しないという領域なのです。そういうものは実は自然界に存在しない。もし分析的な方法であれば,こういうものはとるに足らない概念なのです。しかし工学にとってはこれこそまさに大事なことで,保存がきいていつでも食べられる肉は自然界に存在しているどの肉よりも我々にとってはありがたい存在です。そこで,このような概念が出てくると,これは有益な概念だということを我々は知り,結果的にはソーセージを発明した。自然界には新鮮な肉と腐った肉とこちこち肉しかないのですが,そこに一つのソーセージという人工物を埋め込むことによって,我々の概念形を完成する。それが実はもの造りなのです。

 

6 仮説形成

 

このように分析ともの造りはまさに隣り合わせに存在していて,私たちは同じ概念形の上で操作していますが,全くその行為が違っていて,一方はこれをどん

 

 

 

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