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ュートンは全体的に自然を説明し,我々は有用なものを造るということで違いはありますが,方法的に領域を作るということはそのまままねをしていると言っていいと思います。

ニュートンは最終的には全体を説明しようとしましたが,現在の自然科学あるいは理学はそれを継承しています。すなわち,対象世界の全体を領域に分けて説明するが最終的には「全体説明性」を要求する。つまり全体を同時に矛盾なく説明しようとする。例えば統一理論は,いろいろに細かく分かれた分野のそれぞれのセオリーを統一して,より高いレベルの理論で全体を一遍に説明しようとします。このことはまさにニュートンのプログラムそのものの継承であって,理学においてはやはりニュートンの領域に分ける。しかし,最終的には全体を説明する。哲学はもともと全体を説明しようとするわけですから,これができ上がったときに,まさに哲学と科学の差は解消していく。そういうプログラムが,ニュートンのプログラムには秘められています。

工学も対象世界の全体を有用性という観点によって領域に分けます。ところがその先が少し違います。その先とは,このようにいろいろな領域の知識,機械工学と電気工学を使って何か一つの製品を造る。家を造り,船を造り,コンピューターを造り,自動車を造りと,いろいろなものを造っていく。そこで造って終わりという点が違うところです。理学では,いずれまた統一して大理解を進めようとします。私たちの工学という領域では,ニュートンの2つの仕事,すなわち領域に分けることと,分けた結果をさらに統合して統一的な理解をしようとすることの,その後者についてはまだやっていません。
例えば私たちがどんどん人工化している環境に関して言えば,人工的な製品をたくさん世の中に出していることが地球環境に負荷を与えているとすれば,どうすれば負荷を与えなくなるかということを考えるのは,一つ一つの製品を考えているだけでは不十分です。いろいろな工業製品が地球環境に放り込まれて,それが相互作用を持ちながら人間にとって全体的な環境を作っている。排ガスーつとっても,過去においてフロンは製造工場や自動車の排ガスなどいろいろなところから出てくる。それが結果的には一つの効果となってオゾン層に影響を与えることが地球環境を破壊する代表的な例であるならば,我々は造ったものの効果を総合的に考えなければいけないはずです。しかし我々はそれをしていない。従って私たちにはまだ仕事が残されているので,もしニュートンのやり方を忠実に継承しようとするならば,そこに一つの全体説明性が必要です。
製品はもの造りの行為の結果ですから,まさにもの造りという行動群がたくさんあるわけです。機械工学を使った行動・電気工学を使った行動・あるいは機械と電気を使った行動,それぞれたくさんありますが,その行動の全体を統一的に見て,その全体行動は一体何を意味するのか・人間にとって良いのか悪いのか・地球環境にとってどういう影響を与えるのかを考える。これは今の言葉で言えば環境学になりますが,環境が今問題になっているのは基本的には人間の行動そのもの,すなわちニュートンのやり方の前半しか継承していないという我々の行動に責任があります。
もう少し自戒の念を込めて言うならば,私たちものを造ってきた人間は,機械工学があり電気工学があるいろいろな工学という体系を全体として議論しないで済まそうとしてきた,あるいは全体を統一的に説明しようとしなかったことがさまざまな形で地球環境の問題を引き起こした。簡単に言えば,電気におけるオームの法則と機械工学におけるフックの法則のお互いに関係について,そんなものは考えないでも自動車や電気機械を造ることができるということの中に,実は環境問題の秘密が含まれていることになります。とすれば,私たちが環境問題を解く一つの方法として,工学体系を改めて作り直すことも関係があることになります。科学という形を持つことによって,私たちの環境問題にも対応できるという内容を持っていることになります。

 

4 工学のミッシングリンク

 

それでは横断的に全体を見ることが工学に果たしてできるのか。これは物理学等における統一理論などとは全く違う性格を持っていて,ここから先が,技術あるいは工学の難しいところです。例えばおいしい目玉焼きをつくるにはどうすればいいか。それは,フライパンにサラダオイルを入れて熱し,卵をぱっと落とす。火加減を適当にして,焼けたら火を止める。こういう一つのシークエンスが,行動の規範・シナリオとして与えられる。これがおいしい目玉焼きを作るやり方です。ところがこれは大変難しい。ただ卵を落とすといっても,どのように落とせばいいのか。あまり高いとこから落とすと粉々に割れて,スクランブルエッグになってしまう。あまり低いところから落とすと目玉焼きにはなるが,白身が黄身を覆ってしまって,目をつぶった目玉焼きになってしまう。きれいな目玉になるためには,やはりそこに一種のノウハウみたいな

 

 

 

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