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ないことを考えると、とりあえずORTの普及は重要である。今日、発展途上国でみられる乳児下痢症(infant diarrhea)を改善するためにはORTに頼らずに安全な水を供給するシステムの構築が必要である。

一方、水道の原水となる河川、湖沼の水源の悪化も防がなければならない。水道の悪化をもたらす原因は、水量の減少、人口の増加による生活排水(domestic sewage)の増加、工業化による水の汚染、水の富栄養化(eutrophication)等々があげられるが、さらに消毒のための塩素処理(chlorination)が逆に発がん物質(carcinogen)の産生を促す結果をもたらしたり、ウィルスによる汚染もある。アメリカの水道水では胃腸の伝染病を引起こすクリプトスポリジウム(Cryptosporidium)やランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)による汚染が問題となっており、ミルウォーキー市では40万人が感染し104人が死亡したと報告されている。しかも通常の消毒ではこれらの原虫(protozoa)は死なない。先進国での大きな問題である。

 

4) 水の衛生と母子保健(maternal and child health)

Mills‐Reinke現象から明らかなように、水を濾過するだけで消化器伝染病(digestive disease)による死亡率、さらには一般の死亡率も減少することが明らかとなっている。特に水の浄化による安全な水の供給と使用は乳児死亡率(infant mortality rate)の低減に大きく貢献する。中国における1984年の十大死因(ten leading causes of death)の第5位は消化器系疾患(digestive disease)であった。市における死亡率(death rate)(人口10万対)は23.8、総死亡(total number of death)に占める割合は4.3%であった。ベトナムでは(1990年)、死因別死亡率(mortality ratio by cause of death)の第5位を下痢が占めており人口1万対0.05、罹患率(incidence rate)も同様5位で人口1万対18.4であった。

スリランカでは(1991年)入院患者の十大死因の第5位を胃腸疾患(gastrointestinal disease)が占めており6.6%、人口10万対11.0であった。フィリピンの国民死因(cause of population mortality)(1992年)の第9位は下痢症(diarrhea)、乳児死因(cause of infant mortality)の第4位に下痢症、国民の十大罹患率(ten leading incidence of population)の第1位が下痢症(人口10万対1,587)というように消化器系疾患の占

 

 

 

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