近代潅漑農業はアジアの乾燥地にも大量の潅漑水を導入し、乾燥地での農業生産を拡大した。しかし、大量の潅漑水の導入による乾燥地土壌の問題は塩類化である。潅水時には土壌中の水の動きは上層から下層であり、潅漑水に溶け込んだ大量の塩類は一次地下水となり蓄積され、灌漑の停止に伴い毛管現象により塩類は表層に集積する。塩類の集積は不透水層の位置が浅いほど短期間に起こる。さらに乾燥地土壌の塩類化を促進させる要因は潅漑水の水質である。潅漑水として利用される河川水、地下水は土壌条件を反映し、当然塩類濃度は高い。その結果、潅漑水により持ち込まれる塩類が負荷されることとなる。塩類土壌の改良は作物栽培の観点からすれば、土壌中の塩類を全て溶脱させる必要はなく、作物根圏の塩類濃度を低下させればよい。すなわち潅漑水でどの程度除塩されるかを示す除塩率を向上させることである。
塩類化が農業生産に重要な影響を与えたてえているパキスタンの事例を紹介する。
1) パキスタンの土壌劣化と農業生産
1947年の独立以降、約半世紀の間に人口は3倍以上に増加した。この人口を扶養するため、農業生産の増加により土壌環境には多くの問題が顕在化してきた。
最も大きな問題は、この国の大部分が半乾燥〜乾燥地域に存在ことから、水が農業生産の最大の制限因子として位置づけられることである。これを克服するために世界でも類を見ないほどの潅漑設備の発達が、作土層への塩類の濃縮と土壌表面への塩の集積、さらに潅漑水路からの漏水による湛水とともに1950年代後半より塩類土壌、ナトリウム土壌として農業生産への影響がインダス平野を中心に顕在化した。
また、この国の地形的な要因から、インダス平野周辺の丘陵・山岳地帯では水、風による土壌侵食が深刻な問題である。土壌侵食は農業生産に重要な表土の損失を引き起こすと伴に、砂漠化の要因にもなる。
2) 土壌劣化の形態
一般に、多く作物の通常の生育を妨げる地下水位をもつ地域を湛水地域と定