第1章 アジアの水、人口と環境
東京大学
客員教授 ジェームスE.ニッカム
は じ め に
本年7月14日、アジアの反対側のテルアビブ郊外で木造の仮設橋が崩壊した。このため、マカベイ競技大会で行進中の3人のオーストラリア選手がヤーコン川に落ちて死亡した。この死因は墜落や溺死ではなく、川の中の正体不明の化学物質によるものであった1。ハイテクを導入した水の効率的利用で知られ、経済発展の目覚ましいイスラエルは、イスラエルの国境内で供給される水が一般的に採用されているしきい値1000立方メートル/人(表1)を下回っているとして最近、「水ストレス」が高いと認められているアジアの10の国の一つに数えられていることは偶然ではない。不足分を補うために1967年以前にイスラエルの国外から水を充当することが原因となって、近隣諸国との間に多くの解決困難な紛争が生じている。経済的には発展しているが、水は毒になり、近隣諸国との険悪な関係にあるイスラエルはその他のアジアの国々の将来の水政策のモデルとなるのだろうか2。
1 アジアの特性
本章で扱うトピックは4つ、すなわち人口、水、環境とアジアにおける特殊性である。これらのトピックはお互いに関連している。まずリストの最後の項目から始めよう。アジアはとても広く、多様なため、地域を一般化することは難しいが、水については3つの特性があげられる。
まず最初に、アジアで使用される水のほとんど、すなわち取水される水の85%、さらに消費される水はそれ以上の割合が灌漑用である(表2)3。全体的な水利用の水準が極めて低く、農業用の割合が大きいのはアフリカだけである。これは当然のことながら、世界の灌漑の過半数がアジアに集中していることも意味している。
第2は、世界で人口が5百万人を超えるメガロポリス(巨大都市)の半分はアジアに