日本財団 図書館


(3) 船首部におけるスプレーの発生

荒天・寒冷海域を航行する船舶には時に着氷による問題が発生する。船体への着氷は暴露部に置かれた諸機器及び甲板の凍結による作業性の低下をもたらすばかりではなく、着氷量が多い場合には船体の復元性を危うくする場合もある。船体着氷のメカニズムとしては、霧等の空気中を浮遊する微小な氷核・水滴の集積による atmosphelic icing と、波浪中において船首部から発生する海水のスプレーに起因する spray icing とが考えられる。前者は航空機、電線等への着氷現象における一般的な着氷メカニズムであるが、後者は船舶特有の着氷メカニズムである。船首部スプレーによる船体着氷のシナリオとしては、打ち込まれた海水が甲板上を流れ過ぎるうちにその一部が凍結する現象と空中においてスプレー本体から剥離した飛沫が船体上に着氷する現象とが考えられる。両者を比較すると、船体上へ持ち込まれる海水量としては前者が圧倒的に多いが、後者の場合は飛沫が凍結あるいは過冷却状態にまで空中で冷却される可能性を考えると着氷の効率は高い。

船体着氷の発生の程度に対する指標として、水槽実験結果から船首先端部で発生するスプレーの船体に対する相対的な高さを計測した。この計測は模型船前面撮影した VTR 画像をもとにして行ったものであり、船体中心線上におけるスプレーの船体に対する相対的な高さを計測した。計測結果を図3.3.24 に示す。

098-1.gif

なお、この計測においても実験毎の波高の偏差影響を上記 (1) の船首部運動速度の計算と同様の手法で補正している。図中のZRAはスプレーの相対最高到達位置であり、これと乾舷高さHFの比を deck top 位置を基準として示した。また、本研究の段階では bulwark 高さ等についての詳細は決定されていないが、図中にはこれに対する参考データとして、deck top 位置から1及び2m の高さを示した。図より、巡航速度において航行する場合は、長波長領域を除き、船首部乾舷を超える高さにまでスプレーが達することが判る。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION