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うに、養殖魚は藻の発生による被害を被りやすい。藻の発生は数時間で、市場に出す大きさに成長するまでに数年かかる大魚や小魚を死に追いやり、すべての養殖場を潰すことができる。養殖の子えびもまた赤潮の被害を受けやすく、赤潮は子えびの養殖池の中に流れ込んだり養殖池の中の水と入れ替わってしまったりする。

 

藻の毒素の被害を受けた魚や貝、野生生物のリストは長々と続きかつさまざまな種類の生物が上がっており、それは赤潮現象が広範囲に及びかつ複雑であることを強調している。けれども何らかの点で、こうしたリストは赤潮の影響の大きさを適切に記録しているとはいえない。生存能力や成長力、生殖力、健康回復力などへの悪影響は栄養のレベルで多く発生しており、赤潮の毒素が直接的または間接的に体内に取り込まれたり、赤潮の発生による酸素欠乏の被害を被ったりしている。実際すべての海産食物網の栄養区分において、赤潮もしくは毒素を持つ藻の発生による被害を受けている。ほとんどの赤潮の監視・調査活動では成長した貝や魚、子えびに焦点を当てているが、成長過程にある貝や魚、子えびが毒素によって受ける被害については、つい最近になって初めて科学者の間で認められるようになったばかりである。成熟した魚の死は、その魚が発育期に赤潮の毒素にさらされた経験があることと関係しているのではないかと考えられる。赤潮の生態系への影響は多様であり微妙であり記録するのは難しいが、それは経済の漁業資源への重大な長期的影響を持ち、長期的影響は短期的影響よりも調査価値がありかつ理解しやすい。

 

毒素を持つ赤潮の公衆衛生と生態系への影響に加えて、推定される経済的損失もまた多大なものである。特に地方での消費や輸出に当てられる海産食品に強く依存している経済では、その経済的損失はより大きい。赤潮の発生による経済への影響範囲やそのコストの大きさは、APEC 域内における人々の赤潮の被害に対する関心の高まりや沿岸開発の進展、養殖業の増加に伴って拡大している。赤潮の発生によって貝が隔離され、野生魚、養殖魚が大量死すると、消費者は恐れ完全に安全なものまで含めて海産食品を避けるようになる。こうした現象は最もよく知られている赤潮発生の影響による被害である。健康への悪影響や魚貝食品の売れ行きの悪化は直接的なコストであるが、沿岸養殖の開発やそれへの投資が毒素を持つ藻の発生の可能性から拒まれることによって、間接的で見えないコストも被っている。海でのレクリエーション機会を失うことも重要な間接的コストである。残念ながら APEC 地域全体における赤潮現象によるすべての経済的コストを見積もった報告書は存在していないが、個々の国または個々の事象が対象の報告書から、この問題の大きさを知ることができる。

 

・1972年から1991年における日本の瀬戸内海での赤潮の発生によって、養殖のブリや他の種類の魚が大量死し、その被害額は16500万ドルを越える。

・1987年、88年にアメリカの海岸線から400kmを越えた付近で貝の収穫期に1種類の NSP が発生し、その経済的損失は2500万ドルと見積もられている。

・1917年当時、アラスカの貝産業では500万ポンドもの生産を行っていた。しかし今日では衆の商業的貝産業は、産品が PSP によって汚染されたことが直接の原因となり実質的に存在していない。

 

 

 

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