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まで、毒素を持たず一般に無害であると考えられていた珪藻が原因となっている。中毒患者の5分の1はシグアテラフィッシュ中毒(CFP)であり、それは海底付近の多くの珊瑚礁の表面に付着している渦鞭毛藻によって作られた生物毒素が原因となっている。シグアテラ毒素は食物連鎖を通して、草食の暗礁魚から肉食の大型魚へと移される。同様にして、ニシンやサバ、イワシなどの商業的に重要な魚の内臓にもPSP毒素が蓄積されており、それらの魚を食べる人間の健康を危険にさらしている。これは、いくつかのAPEC加盟国が共通して抱える問題となっている。NSP毒素もまた、魚の体内から抽出されている。クジラやネズミイルカ、海鳥、その他の動物も、汚染された動物プランクトンや魚を食べたことによって、食物連鎖を通して藻の毒素を体内に取り込み被害を受けている。これらすべての中毒症候群は、APEC 域内ではよく知られた問題である。

 

中毒の兆候は症候群の違いによってさまざまであるが、一般的に、神経に現れるものと胃腸に現れるものの2通りである。例えば、DSPは能力を喪失させる下痢や吐き気、嘔吐を引き起こし、PSPは口内や唇、指、四肢にひりひりする痛みをもたらし、感覚を失わせ、一般に筋肉を弱める傾向がある。鋭い痛みが呼吸作用を妨げ、呼吸作用の麻痺によって死亡する可能性もある。NSPは下痢、嘔吐、腹痛、筋肉の痛み、めまい、心配症、発汗、神経の痛みなどの兆候が現れる。シグアテラはNSPの症候群にほぼ等しく、酩酊症候群を引き起こす。ASPは生命を脅かす症候群であり、胃腸にも神経にも症状が現れる。その兆候は、めまい、頭痛、発作、失見識、呼吸困難、昏睡状態、永久的な短期記憶喪失である。

 

藻が原因の貝中毒による病気や死は、時や場所によって大きく異なる。自然環境の変動は、所与の年におけるそれぞれの種の藻の成長率や蓄積率に多大な影響を与え、ゆえに貝の含有する毒の量にも影響している。さらに、貝が市場に到達するまでに貝を監視し海の生物毒素を発見する能力が、個々の国によって異なっている。典型的に先進国では効果の高い貝監視プログラムが実施されており、資源が汚染されている場合にはその場を適時に閉鎖できるようになっている。ゆえに先進国では、貝中毒による病気や死はめったに起こらないが、しかし、1987年のカナダのASP毒素による被害やそれまで問題が発生していなかった地域での中毒発生のように、新しい毒素が突然発生したことによる被害は避けられない。発展途上国、特に複雑な海岸線沿いに位置し、貧しい人々が食糧源を海に依存しきっているような国では、病気や死を導く中毒の発生率が高い。例えば、フィリピンにおいては、1983年に初めて PSP による被害が発生してから、1500人以上の患者と84人以上の死亡者が報告されている。

 

赤潮の影響によるもう一つの形態は、毒素や他の混合物を海水に放したり、毒素はなくとも魚のえらに障害を加えたり、大量の生物を発生させそれが腐敗する時に酸欠状態を引き起こす藻の種によって、海の動物相が壊される時に起こる。赤潮によって野生かつ養殖の魚や子えびが大量死する状況は近年かなり増加しており、このことは現在漁師や養殖業者の主な心配事となっている。その最も良い例は、ヘテロシグマカーテラエ(Heterosigma carterae)とシャットネラ(Chatonella)属の鞭毛藻が発生した日本において、ブリ やその他重要な養殖魚が毎年大量死したことである。檻に入れられた動物が自然災害から逃れることができないよ

 

 

 

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