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? 二次影響

海面上昇の影響は、沿岸域が単に水没することにとどまらず、海岸地形、生態系に対して幅広く、且つ深刻な影響を及ぼすことが知られている。さらに人間生活に対しても、社会基盤が影響を受けるのにとどまらず、生活様式や文化までも影響を被ると考えられている。

このような海面上昇に伴う物理システム、生物システム、社会システムを検討評価するのが、二次影響の主な研究領域となる。二次影響についての研究は、国や地域によって進展度合いが大きく異なっており、我が国の土木に関する研究について見れば、既に研究が網羅されていると言える。

しかし、影響評価には難しい問題がある。人のいのちや文化などは貨幣価値では評価できない。経済的被害だけで評価すると、「いのちの損失」が一人あたりGDP(gross domestic product;国内総生産)と同じように扱われてしまうのである。

 

? 国際的な取り組み、海面上昇による途上国の影響

IPCC 沿岸域管理サブグループは海面上昇に対する感受性、および適応策をとるための社会的対応能力を評価する共通手法を開発した。共通手法は、海面上昇に対する沿岸域の脆弱性評価に対し大きな役割を果たしている。さらに、IPCC 共通評価で指摘された問題点を認識した上で、新しいフレームワークも提案されている。

大河川の三角州、群島国、島嶼国を抱えるアジア太平洋地域は、海面上昇の影響に対して脆弱であることが指摘されており、各国における影響のケーススタディーも進められている。国連や世界銀行が莫大な予算を投じ、地区および国家規模で調査が進められる。調査開始当初は、地形図の入手な国があるなど、しばしば重要なデータの不足という事態に陥っていたが、少しずつ貴重で精密なデータが蓄積されてきている。

 

? 対応戦略、対応策

温暖化の進行を止める研究や努力は行われているが、すでに温暖化の兆候は顕在している。むしろ、温暖化による海水面の上昇は不可避である公算が強まりをみせており、そうなれば海面上昇にどう対応するかという議論が求められていると考えられる。今の時点から、海面上昇を視野に入れた強い海岸線の構築計画などの対応の策検討が必要であるといえよう。

IPCC 沿岸域管理サブグループは、沿岸域の居住民の生活を守るための対応戦略を「撤退」「順応」「防御」という3つの選択肢に分類している(図 5-18)。地域や国の脆弱性に応じた対応戦略、対応策の検討が求められる。例えば、バングラデシュの広範な沈没を土木工学的に「防御」するのは困難であり、作物の転換を検討するなど「撤退」あるいは「順応」策が考えられるべきであろう。対応戦略、対応策の策定においては、ある程度分かってきた分野ごとの知識を統合化・総体化し、適切な沿岸域管理の実践に応用することが求められる。対応が遅ければ対策をとる機会が失われることにつながる危険性が高く、沿岸域に国土を持つ国々は、早急に海面上昇に対する適応方策を立てる必要があると IPCC も訴求を行っている。

 

 

 

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