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5.2 ホルモン撹乱物質による内分泌異常(環境ホルモン)

 

(1) 問題点

環境中に放出される化学物質によって、生物は障害を受ける。ダイオキシンや有機水銀、枯れ葉剤のような化学物質に加えて、今までには問題がないと考えられていた物質の中にも、内分泌系に影響を与えるものがあることが分かってきた。これらの内分泌撹乱物質(環境ホルモン)は、生殖と発育という生物の生存のための基本的な条件に影響を及ぼしうることから、新たな環境問題を引き起こすことが国際的に懸念されている。野生生物の繁殖力の低下や、ヒトの精子数の減少の原因にもなっているとの報告もあり、生物・生態系への影響評価の確立と原因物質の特定、排出抑制策の策定が強く求められている。

 

(2) 研究環境

アメリカの海洋生物学者、レイチェル・カーソンが「沈黙の春」で化学物質による大規模な汚染が、野生動物の繁殖力の減少と関連していることを訴えたのは 1962 年のことであり、今から40年近く前のことである。この本による民意の高まりもあり、急性毒性や発癌性、変異原性という観点からの規制その後に大幅に進んでおり、PCB や DDT は多くの国で製造中止になっている。

化学物質による汚染が野生動物の生殖異常の原因と考えられてはいたが、化学物質が生体にどのように作用し、生殖異変に繋がるかというメカニズムは明確になってはいない。内分泌撹乱化学物質の定義すら現時点では定まっておらず、環境庁、外因性内分泌撹乱化学物質に関する研究班中間報告書(平成9年7月)においても、今後一層の調査研究の推進が必要と提言されている。

内分泌撹乱化学物質に関する社会的な関心は高まりを見せており、各省庁は表5-1の研究会を発足させ、調査研究を開始している。

 

表 5-1 内分泌撹乱化学物質に関する各省庁の研究会、検討会

・環境庁;外因性内分泌撹乱化学物質問題に関する研究班

・通産省;内分泌(エンドクリン)系に作用する化学物質に関する調査研究班

(日本化学工業協会委託)

・厚生省;化学物質のクライシスマネジメントに関する研究班

・水産庁;環境ホルモン検討会

 

内分泌撹乱現象はヒトの生殖に深刻な問題が生じる可能性が懸念され、高い話題性や社会的なインパクトのためにマスコミも大きく取り上げ始めている。このような内分泌撹乱化学物質問題は、イギリス BBC が作成したテレビ番組「Assault on the Male」によって一般に認知されるようになり、我が国でも、NHK スペシャル「生殖異変」が平成9年11月21日に放映され、話題を集めた。

 

 

 

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