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(3) いままでに得られた知見

内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)による生物・生態系への影響は、無脊椎動物と脊椎動物で大きく異なることが分かっている。

○ 無脊椎動物

巻き貝のメスで、オスの生殖器を持つものが見つかっている。「インポセックス」と呼ばれる、メスにペニスや輸精管が発達し不妊に至る性徴が誘導される現象である。これは、船底防汚のために用いられているトリブチルスズが原因である。トリブチルスズをはじめとする有機スズは付着生物の防汚塗料として極めて優秀で、その使用は急速に拡大した。しかし、このことは裏を返せば、有機スズが強い殺生物剤であることであり、水生生物への影響が大きいことを意味する。

インポセックスは、イギリス、アメリカ、日本(イボニシを用いた実験)、シンガポール、マレーシア、インドネシアなどで報告例がある。広範囲に及ぶ汚染報告は、有機スズ汚染が世界的な現象であることを示唆しており、商業的にも生態学的にも重要な問題といえる。有機スズは、致死量よりも低いところでは、メスに対するインポセックス誘導し、その過程は不可逆である。しかし、どのような内分泌撹乱機構によって生殖異変がもたらされるのかについては明確ではなく、更なる研究が必要とされている。

 

○ 魚類

貝と魚では違いが大きい。貝ではメスがオス化するのに対し、魚ではオスがメス化するのが基本である(図5-1)。その上、トリブチルスズも、魚には全く影響がない。

イギリスでは、感度の高いニジマスやコイを用いて、メス化や雌雄同体の出現が報告されている。雌雄同体のコイ(ローチ)が汚水処理施設の下流で釣り上がり、汚水処理施設から経口避妊薬(ピル)由来の女性ホルモン(エチニールエストラジオール)が川に流れ込んでいると報告された。

また、この事例を期に、エストロゲンがイギリスの海にどのように広がっていくかを調べていく中で、羊毛洗浄に利用される界面活性剤ノニルフェノールエトキシレートの分解産物、ノニルフェノールがエストロゲン様作用物質と推定された。エストロゲン様化学物質である DDT、アロクロール、ビスフェノール A と、アルキルフェノールは追加的作用であることが示されており、個々の物質は低濃度でしか存在しなくても、複合すればエストロゲン活性を示す可能性がある。

魚の雄性化の例として、フロリダ(アメリカ南部)の製紙工場下流でカダヤシの雌が雄性生殖器官を発達させた報告がある。しかし、内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)のほとんどは女性ホルモン様の化学物質であり、生殖や発生に関する問題は、オスに対する女性ホルモン様作用の研究である。

 

 

 

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