?顧客の特徴とセールスポイント
造船所は欧州が主体であるが、造船所に対しては3D-CADとEDPにリンクしたシステムをツールとして持つことをセールスポイントとしている。
船主は特に地域的な偏りはなく、全世界を対象としているが、船主に対しては低コスト重視の考え方と技術のギャップを埋めるためのプロジェクトデザインで差別化を図っている。これらは、各種船種における技術経済的なノウハウと蓄積データに基づいて作成される。
なお、造船所にしても船主にしても、新しい提案をするときのキーワードは「トータル・エコノミー」としている。すなわち、初期投資コストだけではなく、メンテナンスコストや環境コスト等も含めた8〜30年の期間での経済性を見ることを提案しており、またそれを定量的に実証できることが Deltamarin の強みとなっている。
?業務プロセス
Deltamarin での典型的な業務プロセスは次のようなものである。
(a)国際会議や論文等でDeltamarin のアイデアを発表する
[例えば1つのテーマで4〜5の論文、20〜30の記事を掲載する]
(b)船主がそれに興味を持ちコンタクトしてくる[personal contact]
(c)アイデアの詳細を紹介してディスカッションする
(d)船主とコンサルティング契約を結ぶ
(e)概念設計を行う
(f)概念設計に基づき造船所に対して設計コンペを実施し造船所を決める
[このプロセスは船主が主催]
(g)建造方法等について造船所とコンサルティング契約を結ぶ
(h)詳細エンジニアリングを請け負う
(i)引き渡し
なお、以上のプロセスをすべて一貫して受注することはまれである。船主へのコンサルティングのみ、あるいは詳細エンジニアリングのみというケースが多い。
このなかで、まず(a)はR&D部門の役割である。同部門の研究者は、最新技術とそれを適用したアイデアを、プロポーザルという形で船主に紹介するのが主な役割である。
表5-2-5は、MIFでも紹介されたAzipod エンジンのプロポーザルの最後の結論の部分である。このような結論に達するまでに、エンジンの配置図等の豊富な図面を用いて説明しているが、設計データに基づいて性能向上度や経済的メリットを算出するだけでなく、生産プロセスでのメリットについても定量的に推計できるのは、建造の詳細エンジニアリングに関するデータの蓄積があるからである。
この内容は、1997年4月に開催されたAzipod セミナーで報告されたものである。この場合は、ABB もしくは Kvaerner Masa-Yards からコンサルティングの依頼を受けてから作成されたものかもしれないが(ただし、金額的には安いと推定される)、通常この種のプロポーザルは無料で作成され、公開資料として発表される。
次の(b)から(f)が、船主に対するコンサルティング・プロセスである。特に、概念設計までのプロセスにDeltamarin のようなコンサルティング会社が深く関与するのは、欧州での一つの特徴といえよう。