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4) バーチャル・エンタープライズ等新たな協業の手法のための基盤整備

成熟製品である船舶及び舶用機器においては、価格競争力の維持・向上が最大の課題であり、?需要に応じて適正なコストで柔軟に船舶等を供給可能な産業構造体質の確立と、?需要の変化や為替の変動に俊敏に対応するための一層の短納期化とコスト削減を実現できる建造プロセスの構築は、造船・舶用工業界全体としての課題である。

バーチャル・エンタープライズとは、企業規模や組織的・地理的・時間的制約を越えて経営資源の集約を可能にし、クライアントの要求に合致したプロダクトやサービスをコスト優位、かつ機動的に市場に投入することを実現する新たな協業の概念・手法であり、その実践例としては、パソコン業界におけるパソコンメーカー、半導体、ソフト会社の協調による新型商品の開発と製造分業等が有名である。

我が国造船・舶用工業の設計・建造等にこの手法の可能性を当てはめてみると、?地理的に離れた造船所間での設備の有効利用、?造船所間での船種・船型別の設計・建造分業による専門性の向上、?造船・舶用工業間での機能モジュール単位での分業による設計・建造プロセスの最適化、?舶用機器メーカー間での機器のシステム化等の円滑化、?造船所同士、舶用機器メーカー同士での共同受注・共同設計・共同資材購入・共同建造・共同生産、?船舶技術者・研究者の地理的・時間的な壁を越えたノウハウの集約等、技術的・設備的な得意分野を有する企業・機関が連携して生産性向上とオーナーズ・ニーズを先取りした船舶・舶用機器の開発等を推進するための新たな手法と位置づけることができよう。

厳しい国際競争・労働需給環境下で、設備投資、研究開発投資、労働力等の限られた資源の有効性を最大限に引き出すため、また、為替変動等のリスクを工期短縮によって担保していくため、今後の造船関連産業の戦略的方向としてバーチャル・エンタープライズの実現を容易にする産業基盤整備、情報ネットワークの形成を図っていくことが重要と考えられる。

成熟商品である船舶においては、船価での評価、トータル・コストの削減が必須の課題であり、得意分野をもった複数の造船所、舶用機器メーカーが、船舶情報を共有し、見かけ上の設計/建造能力の拡大による設備運用効率の向上・学習効果等を追求することによって、生産性の向上とコスト削減を図っていく観点からも、バーチャル・エンタープライズ等の新たな協業の基盤を形成していくことが重要であろう。

また、機器のシステム化、モジュール化や部品の共通化、海外の舶用機器メーカーを含めたOEM等、複数の舶用機器メーカー間の連携等を情報化技術を用いて高度に連携管理したり、設計・仕様・構成情報等の技術・知識を共有するといった新業態の創出は、舶用工業間での協調の姿の一つであろう。

 

 

 

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