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さらに懸念される課題は、現在の労働力の大きな担い手である団塊の世代が定年期を迎えることによって、労働力の激減や技能継承の困難が予想される点である。

事業規模の面から見ても、我が国造船業は、長期に亘る構造調整の結果、事業所単位での経営資源が縮小散逸しており、国際市場で主に競合する韓国の大造船所に比べてその建造能力が小さい。また、舶用工業は中堅中小企業が中核を占めており、経営基盤が弱い傾向にある。

これらの事業環境変化に対応するためには、各社毎の生産性向上努力によるだけでは必ずしも十分とはいえず、事業運営上の規模の拡大による効率の向上を目指すことも重要な方策である。その実現のためには、多くの困難を伴う設備の集約などの手法のみならず、我が国造船・舶用工業の立地・設備・雇用制約を考慮しつつ、高い技術蓄積と各社の強みをさらに向上させる新たな手法の展開が必要になると思われる。また、顧客ニーズや造船・舶用工業を取り巻く社会的要請に応え、造船・舶用工業のもつ技術力を活かし新たな需要を創出していくためにも、関係する業界全体としての技術開発力を一層高めていくことが望まれる。そのためにも、今後は従来からの共同作業を超える新たな試みが必要になると思われる。

今後ますます各社だけで対応することが困難な事業環境で、上記の手法によりさらなる発展を目指すとき、造船・舶用工業の情報化は重要なツールとなるものと考えられ、その際には、個々の企業の情報化とともに、産業全体の有機的なつながりを促進する高度な産業情報化を進めることが重要である。

産業情報化の本格的な流れは、1部の「情報化技術の現状」で述べたとおり、クリントン政権発足直後のNII(National Information Infrastructure)構想として始まった。産業全体で情報技術を利用するケースの特徴を整理すると、第一は「電子データ交換」の積極活用である。各業界で見られるようにデータ交換するためのプロトコルを標準化し、各種の商取引や技術情報の交換を実施している。またインターネットに代表されるオープンなネットワークを活用し、調達先を広げたり販売チャネルの拡大を実施している。

これらの取り組みは、販売・営業、設計、調達、顧客サービスなどの各業務分野の効率化を促進するとともに、産業全体で実施することにより業界全体の業務環境の底上げを果たす役割がある。

第二は、分散された経営資源を有機的に結びつけ、産業全体の知識集約を図る「情報基盤整備」に対する取り組みの活発化である。これらは、近年のオープンネットワーク技術、オブジェクト指向技術、STEPなどのプロダクトモデル技術の成果を活かして従来以上に企業間連携の密度を高める仕組みを作り、産業全体の競争力を高めるための産業ネットワーク基盤づくりである。

 

 

 

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