CAE、CAD、生産管理システムなどの情報化は、基本的に設計や生産現場など各業務の効率化を支援するものとして行われている。さらに、シップ・アンド・オーシャン財団が平成元年度から5年度にかけて実施した「CIMプロジェクト」の成果などを生かし、各社独自にCIMの導入を進め工数削減などの効果を生みだしている。
このように情報化は、個別の生産技術・業務の効率化を図るなど既存技術水準を引き上げることに貢献するとともに、徐々に技術同士の連鎖により生産性を一層向上させる効果がある。また技術の連鎖は、相互に影響を及ぼし有機的に結びついて全体システムを発展させる。このため、CAD、CIMシステムや各種ロボットを統合したさらに高度な生産システムが目指されている。例えば生産性を落とすことなく、数種類の生産品形状に加工、処理できる柔軟な生産ラインを目指すFMS(柔軟な統合生産システム)化が挙げられる。造船業の場合、大量生産ラインと異なりFMS化は困難な点が多い。ただし、多くの工程を無人化した工場も出現しており、今後も企業内の生産分野における情報化を進めることでコスト削減を図ることが検討されている。
このように造船業の生産分野における情報化は強力に推進されている。これは歴史的に常に生産システムをいかに効率的にするかという問題意識を持ち続け、試行錯誤している姿勢による。また、造船現場の大半の業務は、大量生産品と異なり創造性が求められる人手作業が多い。このため、今後の情報化は、個々の設備の機械化・情報化とともに人間系の作業やノウハウ・知識を包含した生産システムを強化することが重要な視点になると考えられる。
(2) 造船業間の情報化の動向
造船業の情報化は、生産分野を中心とした各社個別の情報化とともに、造船業各社を有機的に結びつける情報化の取り組みが開始されている。シップ・アンド・オーシャン財団が平成9年度から3ヵ年計画で開発を進める高度造船CIMプロジェクトの概要を図表I.2.1-2に示す。
本プロジェクトは、CIMプロジェクト等の成果を生かして造船事業所間や造船会社間の情報交換の仕組みを確立することを目指している。オブジェクト技術であるORB(オブジェクト・リクエスト・ブローカー)を活用して設計や生産管理などに必要な情報を検索する仕組みを整備し、同時並行作業を支援することで工数の低減や企業間の協業の促進など実現する。これらにより造船CIMの高度化を図り、我が国造船業の競争力を強化することを目標としている。
本プロジェクトにおける情報化の特徴は、複数企業間の連携を前提に、先端的なオブジェクト技術、プロダクトモデル技術、通信ネットワーク技術を活用し、時間的・空間的制約を超え各社の設計などに関する知識の共有化を目指していることにある。
これにより、例えば同型船などの大口商談における共同受注や共同建造が迅速に実施できることが期待できる。また、各社が基本設計部などのモデル・データやアプリケーションといったものを共有すると、次に利用する人間が効率的に設計することが可能になったり、プログラムに改良を加え再登録することでより知識レベルが高まることが期待できる。