序部
調査概要
1. 基本構想策定の必要性
我が国の造船業は、戦後11年目に進水シェアで世界一になり、その後も高いシェアを維持し、世界の造船業をリードしてきた。我が国造船業の競争力は、生産管理技術等の生産技術の革新とこれを支える良質な技能労働力、経済船型等の技術開発等により達成され、過去10年間においても、自動化設備、CIMの導入等により、高い生産性の向上を達成している。
一方、我が国造船業をはじめ韓国等世界の主要な造船業に近接するという立地上の優位、製造技術の改善、従業員の技量向上等により、シェアの拡大、生産性の向上が図られた。現状においては、船主等のニーズや舶用機器市場の変化に適切に対応した高品質・高信頼性製品の供給、納期の正確さ、設計変更への柔軟な対応等が我が国舶用工業の競争力の源泉となっている。
今後の造船・舶用工業を取り巻く環境を展望すると、造船業においては、韓国の大幅な設備拡張、中国等の造船市場への進出、欧州、米国の助成制度の継続により、世界の新造船供給能力は拡大傾向にあり、2000年以降に予想される需要の低下と相まって国際競争が一段と激化するおそれがある。
さらに、懸念される課題は、現在の労働力の大きな担い手である団塊の世代が定年期を迎えることによって、労働力の激減が予想される点である。我が国造船業は、長期に亘る構造調整の結果、事業所単位での経営資源が縮小散逸しており、国際市場で主として競合する韓国の大造船所に比べてその建造能力が小さい。また、舶用工業は中堅中小企業が中核を占めており、経営基盤が弱い傾向にある。
造船関連産業のシェアの維持と造船関連産業全体の生産性の向上は、我が国造船・舶用工業の競争力維持にとって重要な課題であり、個別企業、個別業界内での業務合理化、経営基盤強化の枠を越えた企業間、産業間全体での経営・生産・研究開発基盤強化が必要性である。
一方で、高度情報化は、クリントン・ゴア政権の情報スーパーハイウェイ構想に提唱されるように、世界規模での産業競争力強化の方策として戦略的な重要性をもっている。米国の産業分野の情報化プロジェクトとして注目されるのが、NIIIP(National Industrial Information Infrastructure Protocol)プロジェクトである。NIIIPプロジェクトは、VE(Virtual Enterprise)の実現を支援する産業情報基盤形成の戦略的な取り組みであり、VEは、企業規模や組織的・地理的・時間的制約を越えて経営資源の集約を可能にし、クライアントの要求に合致したプロダクトやサービスをコスト優位、かつ機動的に市場に投入することを実現する新たな協業の概念・手法である。