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7 総合評価と今後の課題

前章までに、個々の近代化技術に関する評価を行ったので、ここでは総合的な評価と今後の課題について検討する。

総合的な評価を行う際の前提として,最初に考えておくべきことは近代化設備のあり方は乗員の問題と関連して評価する必要がある点である。つまり、丁度話題になっているISMコードで船と人間を一体としたシステムとして安全管理するとの視点が採用されているように、本来、両者は密接な関係を持つ。例えば、運航員がベテランであれば設備はプリミティブなものでも十分に安全に運航可能と考えられるが、内航船の将来を考えると永年の経験に裏打ちされた豊かな技量を期待することは困難と考えられるから、本船の仕様は未経験な操船者でも操船可能なように決めている。ベテランはどんな設備でもうまく使いこなすかというと必ずしもそうでないことが知られている。つまり、高度の設備を使いこなすにはそれなりの学習や訓練などが要求されるが、設備に頼らずに自分だけで操船出来れば、学習してまで習熟する必要はないと考えられ、ベテランの方が適応が遅れる場合が見られるのである。これは自動化に関連していろいろな分野で指摘されていることである。今回の翔陽丸には船主の永年の運航経験で育てられたベテラン船員が配属されるから、その点の理解をした上で前章までの評価を理解する必要がある。

 

7.1 統合操船システムの総合評価と課題

統合操船システムは以下に示すような幾つかの機能から成り立つので、それぞれに対する評価を要約する。

○ワンマン化に対応する配置

一つの場所に留まって操船するという考えは建造前には相当に不安がられたが、運航の模様を見る限り容易に馴染んで利用されていると評価可能である。定位置からの広い視界の確保は有益と評価されている。当初は立派な椅子を準備していたが、ベテランの感覚では座っての操船は受け入れられないようであった。近代化装備のあるものに対しては座った姿勢の方が使用し易いものもあり、多少は習慣的なものもある。

○操船情報の事前加工と表示の集約化

本船では事前加工した情報をCRT上に集中表示するという方法を採用しているが、この考えは容易に理解され、受け入れられている。特に電子海図とレーダ画像、GPSによる船位の重畳表示は大変に好評で今後の必須装備と考えられる。

○自動船位誘導

この機能は便利なものと理解されているが、その精度等への信頼が十分でないせいか、狭水道とか、輻輳海域では必ずしも効果的に使用されていない。直接の操舵の頻度は少なく、オートパイロットの利用が多い。船位制御はDGPSが利用可能という条件下では技術的には人間並あるいはそれ以上の精度と信頼度が可能と考えられる。しかし、現在のトラッキングパイロットは一般航海仕様で、複雑な強潮流下とか輻輳海域で高精度に制御するという観点から必ずしも使用されていない。船位誘導を前提とした操船に用いるには、その局面に応じた精度と信頼度を明確に確保するために制御特性を自動調整するとかが必要かも

 

 

 

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