これまで、ARPAの自動捕捉技術については、本調査を含め十分な議論がされていない。本調査の過程で自動捕捉技術自体のレベルにまで検討できなかったため、この技術の改善策については今後の課題として認識するとともに、避航支援機能の有効性を確認するために、調査員がARPAの自動捕捉機能を代替して避航支援機能の利用を図るものとした。
?危険領域の大きさ
危険領域の大きさは、運航員(操船者)の操船感覚とある程度合致させる必要がある。そのためには、実際に表示の大きさを航行の局面に応じて適宜変化させて調整する方法が考えられる。
(3) 避航支援機能の調整と有効性の確認
?航行環境の違いの確認
避航支援機能の使用ならびに危険領域表示の大きさ調整のため、調査員によるARPA操作が実施された。(平成9年9月)このとき、航行環境の違いを他船との航過距離で確認するものとした。
図4-1-13に調整作業中に出会った他船との航過距離の分布を示す。ここでは、航行環境を、
「備讃瀬戸南航路〜備讃瀬戸東航路」(地形的に制約されている上、輻輳している)、
「備讃瀬戸東航路〜鳴門海峡」(地形的な制約は少ないが、内航船の主要ルートである)、
「鳴門海峡〜日ノ御埼」(地形的な制約は少ないが、船舶の流れが錯綜している)、
「日ノ御埼〜潮の岬」(地形的な制約は少ない、内航船の主要ルートである)
とに分割した。
図4-1-13に示す通り、「備讃瀬戸南航路〜備讃瀬戸東航路」では船首方向・正横方向ともに他の海域に比べて近距離で航過していることが分かる。また、沿岸域での内航船の主要ルートである「日ノ御埼〜潮の岬」間では、正横方向の航過距離が他の海域に比べて大きくなっていることが確認できる。
いずれの海域においても、操船者は周囲の航行環境に対応して最適と思われる操船をしているが、地形や船舶交通の違いによって確保される航過距離には差があることが認められる。したがって、避航支援機能が危険領域表示を有効に提示するためには、その大きさを航行環境に応じて調整する必要があることが確認できた。
?危険領域表示の調整
運航員による操船中に、他船による危険領域を表示し、操船者の目視による動静判断・危険感覚から危険領域の大きさを適宜変化させて対応を図った。
結果、「備讃瀬戸南航路〜備讃瀬戸東航路」付近の海域での大きさを"1"とすると、「備讃瀬戸東航路〜鳴門海峡」付近の海域では"2"、「日ノ御埼〜潮の岬」付近の海域では"4"が妥当であると判断された。
図4-1-14から図4-1-16に、各海域での検証結果を示す。(各図の(1)〜(3)には実際の他船との出会い状況が示されているが、危険領域の表示はその時に操船者が見ていたものではない。比較検証のために、同一の局面で大きさの表示を変えたものである。(3)にはその後の航跡を重ね描きした。)
各図に示されるとおり、その後の航跡は表示された危険領域の外周を辿っており、設定した係数("1"、"2"、あるいは"4")が妥当であると判断することができる。