乗船調査等を通じて、避航支援機能ならびにARPA機能の使用に関連して以下の事項が明らかになった。
?レーダの使用について
視界が良好な場合には、レーダを用いることはなく、目視による見張りを優先させている。
レーダを使用する場合は、陸岸との離隔距離の確認、錨泊時に先に停泊している船舶との離隔距離を確認する場合などであり、他船の動静判断よりも、陸岸等との位置関係の把握のために使用されることが多い。
他船の動静判断は距離5マイルから3マイルの範囲で行われており(運航員A:船長に対するヒアリング)、また、通常、避航を開始する距離は1.5マイルから1マイルである(同)。したがって、視界が良好であれば目視による動静判断で十分対応できているものと判断され、敢えてレーダの使用・ARPAの捕捉、ひいては避航支援機能を求めていない。
?ARPA捕捉について
内航近代化実証船のシステムでは、避航支援機能はARPA情報を前提にしているものの、レーダの個別使用を考慮して、ARPAターゲットの捕捉作業はレーダコンソール上で行うこととなっている。したがって、避航支援機能を利用するためには、見張りを中断してレーダコンソールの操作を実施しなければならない。また、レーダエコーの乗り移り現象およびロストによるアラーム発生、ならびにターゲットをキャンセルする操作に煩わしさがあり、ARPAの使用が控えられている。
?危険領域表示の大きさについて
避航支援機能の提示する危険領域の大きさは可変であるものの、マニュアルで調節する必要がある。瀬戸内海などの船舶が輻輳する海域では適切な調節を行わないと危険領域が重なりあってしまい、操船者の目視による判断と危険領域表示との間で不整合が生じる。
以上の避航支援機能の使用に関する現状について、問題の特定と対応を検討した。
?船長の経験
現在の船長クラスは、船長として14年程度の運航実務経験を有しており、いわゆるベテランである。したがって、これまでの経験に裏打ちされた技術は最上級であり、既存の機器・運用技術で十分対応できていると推察される。
しかし、今般の内航海運の諸事情を勘案すると、今後当該船長のような技術を持つ人員を恒常的に維持していくことは難しいと言える。十分な経験を有していない若年層への世代交代を考慮すれば、当システムが提供するような客観的な情報による避航意志決定に対する支援は有効なものになると判断される。
?ARPAの操作
避航支援機能はARPA情報を前提としているから、船橋で甲板部一人が当直する内航船の場合には、システムがターゲットの自動捕捉機能をもっていることが必要となる。