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4.7 今後の課題

本研究に関連して、流出油拡散漂流シミュレーション分野の今後の課題として、次のような研究対象が挙げられる。

(1)分散処理剤による防除効果のシミュレーションと性能試験

分散処理剤による防除効果をモデル化し、海上残油量の経時変化グラフ等で視覚化して効果的な分散剤使用の意志決定に資する情報を提供することが重要と考えられる。

そのためには、モデル化した分散効果のパラメータを性能試験等によって得る必要がある。油が含水すると急速に防除効果が低下すると考えられるので、単純な処理能力値ではなく、含水(風化)の段階に応じた防除効果のデータを得る必要がある。

 

(2)爆発限界ガスの広がりのシミュレーション

平成9年7月の東京湾におけるダイヤモンド・グレース号の座礁。原油流出事故の際に懸念されたように、原油等の揮発性成分の多い油の流出事故発生直後の現場近傍では、流出油から蒸発したガスが爆発限界を越える濃度になっている可能性があり、防爆対策を施していない内燃機関を搭載した船舶等で近寄ることが危険な場合が考えられる。事故直後にどこまで現場に安全に近寄れるかは、防除作戦効果を大きく左右する要因であり、現場の気象・海象条件による爆発限界ガスの広がりの予測が必要と考えられる。

 

(3)リアルタイムデータ入力

海上保安庁では、本モデルで行っているようなデータベース中心の流動予測とは異なるリアルタイム性を強化した流動予測システムを整備中である。また気象庁のGPVは、沿岸海域の細かな流動予測に用いるためには空間的解像度に課題はあるものの、予測に欠かせない海上風の予報値を現業体制で配信している。

これらの海象・気象データを流出油の拡散漂流シミュレーションに入力できるようにして行くことは、リアルタイム性を増し、予測精度を向上させるためには重要である。

 

参考文献

1)「海上流出原油の風化について(蒸発・乳化と物性の変化)―原油風化試験結果の理論解析とその応用―」、(財)シップ・アンド・オーシャン財団、平成7年8月

2)「大規模油流出事故の初期対応に関する調査研究<まとめ>」、(財)シップ・アンド・オ―シャン財団、平成9年7月

3)Rasmussen, D. : "Oil spill modeling - a tool for cleanup operation",Proceedings of Oil Spill Conference, 1985, pp.243-249

4)Fay, J.A.: "Yhe spread of oil slick on a calm sea", Oil on the sea,1969, pp,53-63

 

 

 

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