こういった対応を含め、全天候・全地形条件対応準備を、緊急防災計画として整備するプロジェクトが現在進行中で、その費用は高額となることが予想されるが、公共安全と、環境保護の観点からこれを完成させることが急務であるとしている。
また、Alyeska Pipeline Service社のHillman(1996)の論文では、Exxon Valdez号流出事故の過去を持つプリンス・ウィリアム湾の野生生物保護を目的とした油防除計画、訓練、及び設備の必要性と概要について紹介している。
これによれば、Alyeska Pipeline Service社は、アラスカのパイプラインやプリンス・ウィリアム湾で油流出事故が発生した場合の早急な対応と野生生物の保護を目的とした対応準備をしており、パイプライン沿いやValdezの、流出油対応だけでなく、野生生物の捕獲、救助、保護のための資機材を段階的に配置すると共に、野生保護局等、環境関連機関に捕獲許可を得た要員や油に汚染された野生生物の救護の技術者も確保している。
さらにアメリカのNOAAでは、沿岸海域の油汚染感度地図(Sensitivity Map)を作成しており、その沿岸域が油に対してどの程度敏感か階級分けを行い、油流出事故発生時の防除対応に役立てている。
このマップは、地形条件、野生生物、人間の生活形態の3種類の情報が含まれており、地形条件の情報においては、その地域の開放/閉鎖性や基盤地質、水象等、また野生生物の情報では、重要種生息域、絶滅種生息域、月毎の生息、数、営巣状況、抱卵・孵化状況等の情報、さらに人間の生活形態では、沿岸域の利用状況(アクアカルチャ、公園、マリン・サンクチュアリ、取水域、商業/遊漁業)等に関する情報がそれぞれ全米のほとんどの地域にわたって詳細に作成されている。
油流出事故が発生した場合には、このマップを参照して、対応策を考えることになっている。一例を挙げると、分散処理剤使用に際し、当該海域内に遊漁区域がある場合には、漁業種類のリストを表示する、あるいは各季のいつ頃に漁が盛んであるかについて示す等、かなり実戦的なものとなっている。
また、ヒアリングでNOAAを訪問した際には、特に最近では油に汚染された微生物を魚介類が摂取することによる、生体内蓄積が注目されつつあり、これに関して海産物に含まれる油の汚染について再検討する研究が始められようとしている(Mearns et al,. 1997)とのことで、これに関連して油流出事故発生後の海産物の汚染程度を示すガイドラインを作成していた。
防除対応チームの作業中における健康管理と安全衛生の必要性を説き、これの実施方法について紹介している研究もある(Cantwell, 1997)。この研究では、回収機材の運用や流出油膜への接近時の注意事項等に関する物理的な安全管理だけでなく、作業員が回収作業にあたる際の、流出油の揮発性成分による中毒防止や肉体的・精神的疲労の管理、作業員のローテーション等についても詳細に述べており、Nakhodka号事故における海岸での防除作業中に作業者が死亡、あるいは受傷したといった事実を勘案すれば、今後これに関する研究の重要度はさらに増大するであろう。
流出油防除は、事故発生の際には必然的に発生する作業であるが、これにはその統括・指揮、資機材、輸送、人員、連絡・広報、等のために莫大な費用がかかる。今後この費用の運用、捻出、また責任所在等について考えるとき、防除対応における費用の管理と防除の効果の評価は重要である。
合衆国沿岸警備隊(USCG, 1996)では、これの評価・管理手法について研究を行っているが、Nakhodka号事故で多くのボランティアに依存した我が国においても、こういった研究は今後必要になるであろう。