3.1.6 まとめ
以上、各国の防除体制についてその組織、連絡、計画、実施及び訓練の視点からまとめた。
アメリカにおける防除実施においては、基本的には事故当事者が回収防除責任者としてあたり、小規模な流出油事故に対しては、これと各地域の流出油対応組合が対応するが、手におえない大規模な流出事故については、現場調整官の判断・指示に従ってUSCG、MSRCが出動・支援する。特に、環境への影響が懸念される場合についてはNOAA等の協力を得、回収に当たる。
イギリスは、周辺海域に多くの油田を抱えているが、油田からの流出事故については、油田オペレータが管轄のDTI、HSE及びMPCUに通報し、これらの機関が共同で連絡・広報管理にあたる。この対応に関して実質的な流出油処理に対してはMPCU、安全衛生関連事項にはHSE、イギリス領北海におけるオペレータ間との報告・指示にはDTIがそれぞれ責任を有している。イギリスでは、初期対応における機械的回収が困難な場合には、直ちに航空機による分散処理剤の使用が関係機関間で検討される。
ノルウェーにおける流出油防除対応体制は、イギリスのそれと形態が似ているが、防除実施については事故原因者の対応能力に関わらず、防除実施機関が出動する。荒天時の防除は原則的に行わず、海象の静穏化後、速やかに防除作業を開始する姿勢をとっている。分散処理剤については、水産資源に対する影響を考慮し、初期対応ではあまり使用しない。
カナダでは、波高3m以上の場合、機械的回収は行わず、ノルウェー同様、海域の静穏化後、油回収船に油回収装置を装備して回収を実施する。
外洋における効果的な対応策としての分散処理剤散布は、イギリス同様、初期対応での有効な方法として認識している。また、現場燃焼についても有効手段と認識しているが、その実施に際し許可条件を設定し、処理の有効性についても、風速、風化状態、油膜厚、天候等を考慮して評価している。さらに、安全衛生面から煙の毒性や燃焼のコントロールについても注意を払っている。
このように今回調査対象とした欧米諸国では、油流出事故対応の際の組織が明確にされており、特に現場責任者や対応機関間の役割分担が明確にされている。一部を除き、基本的には事故当事者が回収防除責任者としてあたり、手におえない大規模な流出事故について上位の防除対応機関が支援するという体制をとっている。
大規模な外洋での流出事故の防除対応は、ノルウェーを除き、各国とも分散処理剤散布の有効性を示唆しているが、機械回収については限界を認めており、回収可能時の出動体制の整備を重要視している。また、各国とも多種多様にわたるカテゴリーの油防除対応訓練を自機関内だけでなく、広く民間にまでトレーニングコースとして開催して流出油防除作業の技能向上と対応要員の育成に努めている。
一方、日本では、「ナホトカ号流出油災害対策関係閣僚会議」傘下の「大規模油流出事故への即応体制プロジェクトチーム」による即応体制の検討がなされ、「油汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画」として閣議決定された。これに基づき官公民関係各機関における
1)情報収集、通報、連絡体制、
2)関係機関における即応体制、
3)迅速かつ総合的な油防除実施体制の充実・強化