2.2.2 Sea Empress号油流出事故
(1)発生状況
1996年2月15日、原油タンカー「Sea Empress号」がウェスト・ウェールズのミルフォード・ヘブン付近で座礁した。同船舶は、右舷船殻を損傷、積載していたフォーティーズ・ブレンド原油131,000tのうち72,000tと重質重油480t(合計推定約86,400kL)が流出した。
(2)防除対応
イギリス政府の海洋汚染防止局(MPCU:Marine Pollution Control Unit)への連絡は、沿岸警備隊海難救助調整センター(MRCC:Marine Rescue Co-ordination Center)を通じて行われた。セスナ404が通報後30分以内に出発し、サザンプトンにあるMPCUの代表者を集めるとともに、分散処理剤散布機のDC3型が出動態勢に入った。
この事故では、Texaco社が責任を負い、地元での対応を組織した。同時にサザンプトンを本拠地とするOil Spill Response Limitedの出動も決定された。
上げ潮により、流出油(初期推定流出量約2000m3)は、ミルフォード・ヘプンへ流れ、さらに農漁業食料省指定の排除区域(海岸線から1000m以内、島から750m以内)に流入したため、分散処理剤の使用が不可能になった。これにより防除一次対応は遅延し、一次活動はウェスト・アングル・フレッシュウォーター・ウェストとアングル湾の油の除去に焦点がしぼられた。
海上での対応では、ミルフォード・ヘブン港、港湾局の防除センターから政府所属の包囲・回収機材が持ち込まれるとともに、船舶問油移送機材が防除センターからSea Empress号に輸送された。この時点で、海上での回収システム追加の必要性が認識され、リバプール湾周辺区域支援の待機任務についていたプリングス・マリーン社のフォースエクスプローラー号とガルフ・オフショア社のセフトン・サポーター号が提供された。これらの船舶と連携して、港湾局のシー・モップ号、シー・スウィープ号が港湾区域制限水域内での防除作業にあたった。
また、ボン協定に基づき、ヨーロッパ諸国からは、オランダのマーフレックス・アーム回収システムを装備した浚渫船2隻、フランス海軍の回収システム装備船舶に始まる多くの船舶が提供された。
化学処理剤制限区域外に移動した流出油に対しては、空中散布による分散処理剤の使用が開始された。Finasol 0SR-51、Dasic LTSW、Dasic Slickgone NS、Dispolene 34S、Superdispersant 25、Enerspere 1583、Corexit 9500の7種類、合計約430トンの分散処理剤が使用され、流出油の海岸漂着は大幅に削減された。
散布作業においては、空中処理剤運搬システムやAddsパックが使用され大量の分散処理剤の使用を可能にした。流出したフォーティーズ・ブレンド原油は油分散処理剤になじみやすく、流出油の沿岸漂着を削減する上でこれの使用が非常に効果的であった。
事故当初における試算によれば、120,000〜140,000tのエマルジョンがサウスウェールズの海岸線を汚染する可能性あったが、迅速な分散剤散布と機械式回収により、汚染規模はその10%程度に抑えられた。
流出したフォーティーズ・ブレンド原油のエマルジョン10,000〜15,000tが2月29日までにサウスウェールズの海岸線約200kmを汚染した。海岸浄化は、主に手作業と軽量資機材によって実施されたが、この海岸線は起伏が多く、その形状や地質が変化に富んでいるため、基層タイプによって