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も懸念される化合物である。したがって、効果的な生物修復活動とは、必ずしも油そのものを除去することではなく、実質的にPAHの分解を速めることである。

エクソン・バルディーズ号油流出事故が起こるまでは、多くの人が油の分解を促進するには油分解バクテリアを海岸に添加することが肝要であると信じていた。多くの人は又、微生物を使用すれば油は数日間で分解できると信じていた。条件を限定した研究室での実験では、油分解バクテリアを培養し油に添加すると、多くの場合数日間という期間でも油分解を加速する。しかし海岸は条件を限定した実験ではない。天候、海・潮流、風、波、降雨、微生物間の競争や捕食等の全てが流出油にバクテリアや他の物質を添加した効果を減殺する。アラスカ、カナダ、米国南部、ヨーロッパ等で行われた多数の海岸線油流出実験の全てが、油分解バクテリアはどこの沿岸域にも生存し、又生物分解を制限する主要因は栄養素(窒素・燐)、酸素(嫌気性湿地土壌中の)、及び油そのもの(油の中にはより分解されやすいものもある)であると証明している(Swannell他 1996年;Venosa他 1996年;Hoff 1993年;Hoff他 1995年)。この結果から、今日の大多数の意欲的な研究者は生物分解を促進するには、生物分解に制限を与えている上述の主因子を供給してやる必要があるという概念を支持している。しかし、多くの場合これは無駄である。中には栄素(窒素・燐)あるいは酸素(化学的又は物理的に換気された)(Swamell他 1996年)を加えることが必要な場合もある。制限を加えている要素は何かを決定する一番の方法は、油汚染された海岸線の沈殿物の中にある栄養素と酸素の現在の濃度を測定することである。例えば、Venosa他 (1996年)は、浜の砂の中では可溶性窒素が沈殿物中の含有率が2mg/L以下であれば制限要素である可能性がある、と示している。その場合、窒素は、溶在状態(Venosa他 1996年による表現)、あるいは小球(フリル)、球粒(ペレット)若しくは豆炭(ブリケット)のような“徐々に放出する”形状で連続的に供給してやることができる。

Venosa他 (1996年)によって行われた米国デラウェアの砂浜での海岸線生物分解実験(Mearns他 1997年によっても引用されている)で、成功した生物修復の属性と自然の分解過程との比較が示されている(図3)。彼等はランダムに配置したブロックを用いて、ナイジェリア原油で潮間帯小区画に、無処理、栄養剤処置のみ、油分解バクテリアと栄養物質による処理、を施して実験した。実験は3ヶ月間続けられた。単なる物理的洗浄と風化作用だけで28日毎に油の半分が海岸線から除去された。海岸線に残っていた油分中のアルカンとPAHは、更に約28日間の半減期を要して、自然に(栄養剤あるいはバクテリアを添加することなく)分解された。栄養剤を添加するとアルカンの分解速度は2倍になった。(28日から14日に。又、PAHの分解速度は約50%上がった(図3C・D))。油分解バクテリアを添加したものは何の変化も起こらなかった。実際、単に油汚染物質を添加しただけの数日間で、アルカン及びPAH分解バクテリアの自然濃度は、1gの砂中に有機体約100万個になった(図3E・F)ことをVenosa他が発見した(1996年)。更に、5件のうち4件の生物定量法によって、処理の如何にかかわらず、油汚染された浜辺の沈殿物から微生物、ウニの幼生及びエビの幼胚に対する毒性が急速に失われていったことが判明した(図3G〜J)。しかしながら、いくら風化した油の濃度が低くても、油汚染された沈殿物には、依然として端脚類生物に対する軽い毒性が残っていた(図3K)。

同様の実験が干潟、沼沢、湿地、礫浜等を含む他の海岸線環境で実施されている(Swannell他 1997年)。油の分解を制限するものがあるとすれば、それはバクテリアではなく栄養素と酸素である、という一般原理は全ての人に認められている。これら全ての実験結果から、Mearns他が1997年に、生物修復対応実行計画を提唱した。その内容は、(1)処理前評価(生物修復は実行可能な対応策か、及び分解速度制限過程の決定)(2)処理計画と監視(分解速度制限処理剤の選定、負荷速度の計算、監視の必要性)(3)実行(処理剤と輸送システムの確保と展開及び人員の教育)(4)処理の終了である。

 

 

 

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