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経験し始める。ただし、(湾岸戦争中のサウジアラビアの油流出のように)非常に大規模な油流出があった際には、海岸線は数年以内で回復することはない。

 

2.2 海岸線海洋生物の性質と油流出からの回復

世界中の殆ど全ての海岸線には、多種・多数の海洋生物が生息している。岩石浜、礫浜、湿地、マングローブ、干潟、又砂浜や人工構造物(桟橋・突堤)でさえ、独特な、豊富な、絶えず変化する海洋生物群を持っており、漁業関係者や海産物消費者も含めて、沿岸全域にある食物網に食料と安全な棲み家を提供している。海岸線生物には、多種・多数の魚類、カニ類、フジツボ、ウニ、ヒトデ、海洋虫、二枚貝、カキ、巻き貝、カサ貝、クサズリ貝、海藻類、微生物(油を分解するバクテリアも!)がいる。これらの動植物は緩やかに結びついた生態系共同体の中で生息し、えさを供給し、競争し、捕食し、そして繁殖してゆく。このような海岸線資源や生態系共同体は、油流出初期の衝撃で脅威に曝され、ひどく破壊される恐れがある。しかしながら、慎重に保護してやれば、多くの生物は油流出の危機を乗り越え、個体数を回復し、残存する油処理に役立つ。

浄化作業による“過剰殺戮"の歴史的に最も良い例が、1969年にイギリスで起こったトリー・キャニオン号の流出事故である。この事故では、岩石海岸線の浄化に灯油系溶剤を使用したために、せっかく油の汚染から生き延びた多くの海洋生物が死滅してしまった。確かに海岸線は浄化された(除去作業は効果的であった)が、生存していた海洋生物に甚大な損害を与えてしまった(Hawkins and Southward 1992年)。更に最近の例をあげれば、1989年エクソン・バルディーズ号の油流出事故がある。岩石海岸線に、流出油汚染から生き延びたかなりの数の潮間帯海洋生物がいたが、高圧高温洗浄で死滅してしまった(Lees他 1996年)。洗浄は岩の表面から油を除去するのには効を奏したが、洗浄が行われなかった海岸線と比較すると、海洋生物の回復は遅れた。海岸線化学浄化剤を使用すれば、大量洗浄の必要は少なかったのであるが、その使用は承認されていなかった(Lees他 1996年)。

小石や砂の海岸線で高圧洗浄が行われたことによって、油だけではなく、二枚貝の成長に必要な細かい粒子の沈泥や泥土までもが洗い流されてしまった。実際、洗浄中に多くの沈殿物が柱状になって岸から離れた透明な水中に流れ出ていくのが目視できた(Mearns 1996年)。更に、両流出現場での長期にわたる監視調査で強力な浄化活動が海岸線の海洋生物の回復を遅れさせたことが確認できた。我々がかなり詳細な研究を重ねてきたエクソン・バルディーズ号の場合、強力な洗浄によって海藻の回復の徴候が少なくとも1年間は遅れた(図2.Houghton他1997年及びMearns1996年)。事故から8年後の今日、汚染された海岸線でも浄化された海岸線でも海洋生物は繁殖生長しているが、海洋共同体の構造や種の構成については、まだ充分に回復しているとは言えない(Houghton他 1997年)。

 

2.3 海洋生物保護:海岸線浄化の目的

前述した新しい知識のおかげで、海岸線浄化の目的は“海岸線から油を完全に除去してしまう"ことではなく、ある程度除去して、自然が仕上げられるようにしてやることと、今や一般に認められている。過剰な浄化(人員の過多、化学薬剤の過多、洗浄の過多)は、流出油から生き延びてきた海洋生物に、逆に危害を加えることになる。要するに、過剰な浄化は回復を遅らせることになる。

 

3.0 海岸線浄化の選択肢に関する概説

海岸線浄化の選択肢には、無対応、物理的処理と除去、及び化学的処理と生物処理(生物修復)がある。物理的方法には、手作業による処理(拾い上げ、掻き集め、手作業による吸着マット使用)、機械的処理(耕作、こすり落とし、汀段移動)、溢水と水圧洗浄(回収装置の使用に伴う冷水又は温水、低圧又は高圧)、焼却(主

 

 

 

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