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概 要

海岸線に漂着した油の除去あるいは分解に用いられる方法―全てが効果的という訳ではない―は数多くあるが、ほんの一握りの海岸線のタイプにしか適さないものが多く、中には、全く浄化策を施さない方がそれ以上の危害を与えなくて済むと言ったものもある。エクソン・バルディーズ号油流出事故によって、放置(無対応)、高圧高温洗浄、汀段移動、海岸線化学浄化剤の使用等を含む幾つかの海岸線浄化方法の、短期及び長期にわたる効果と影響を比較対照するという絶好の機会が得られた。流出初期にはかなりの海岸線海洋生物が生存していたが、圧力洗浄を施すことで死滅してしまい、油はだいぶ除去されたにも拘わらず、その回復は遅々としている。ある一つの海岸線洗浄剤は生存する海洋生物に影響を及ぼすことは殆どなかったが、今回の対応には用いられなかった。生物修復は承認され広く使用されてはいるが、結果については議論の余地も不明な点もあった。生物修復に関する追跡調査によると、油分解用の微生物を海岸線に添加しても無駄であるが、状況によっては栄養剤(化学肥料)を継続して用いると、油分解を促進できることが指摘されている。要するに油や海岸線が持つ特性に合わせてそれぞれの浄化法を施し、流出初期にまだ生きている海洋生物の保護に注意を払うべきである。

 

1.0 はじめに

1989年のエクソン・バルディーズ号のアラスカ沖油流出事故以来、海岸線流出油浄化法に関する効果(油除去効率)と影響(生物学的被害)とを評価するために、“ニューウェーブ"といわれる実地調査が行われてきた。加えて、過去の対応策の全体的な利益と影響が再検討されつつある。まだ大部分の検討作業が進行途中ではあるが、結果として、対応当局は、海岸線を処理するのに使われる方法を選択するに当たってより厳しく、より慎重な姿勢をとっている。又、究極の質問「どこまで浄化すれば充分か」に対する答えを出すのにも慎重になっている。本論文は、海洋生物に対する利益と影響に焦点をあて、海岸線流出油浄化法と浄化の研究の現状を展望するものである。

 

2.0 油は海岸線にどの程度の悪影響を及ぼすか

一般大衆、政策立案者、マスコミは通常、海洋環境に流出した油は非常に有害で持続性のある物質であり、一刻も早く完全に除去してしまわなければならないと思っている。海上では、鳥類・哺乳類達が、油によって窒息死してしまう。即ちこれらの動物が数時間以上、油にまみれたままあるいは曝されたままでいると、動物自体、若しくはその子供達(巣立ちしていない雛鳥や亀の卵)にとっても毒性が及び得る。リゾート海浜で油流出が発生すると、例え軽微であろうと無毒であろうと、即座に、その地方への来訪客と収入源は失われてしまう。例え汚染が無くても、汚染海産物への恐怖から漁場は閉鎖されるかもしれない。油流出による死や絶滅という大衆のイメージは、完全に的を射たものではなく、対応や海岸線浄化の方針を決定する第一要因であってはならない。

 

2.1 油の動向と毒性

油は、非常に変化しやすい複雑な自然物質である(図1。上)。海洋あるいは沿岸海域に放出されると、油が持つ特性や化学的性質は、多様な物理的・化学的・生物学的作用に曝されて重大な変化を受ける(図1。左下)。とりわけこのような過程を経ることにより、油は海洋生物や海洋生態系にとって、多かれ少なかれ毒性(通常は低い)を持つようになる(図1.右下)。油が海岸線に漂着するまでに、あるいは漂着してから何日も経過した頃、海岸線の海洋生物はこの“風化した"油で窒息死状態となるかもしれないが、油の毒性は、急速に低下するのが普通である。更に、油の分解と解体とを促進する付随的過程(粘土・油の相互作用、生物分解等)を

 

 

 

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