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シー・エンプレス号の事故は、油がすでに12〜18時間以上にわたって風化している場合には、この海面下の監視が非常に重要であることを示した。この時点までの海面サンプリングにより、40%がすでに蒸発していること、そして70%の油中水エマルジョンが形成されていることが分かっていた。分散処理剤が存在しない場合には、高い濃度は殆ど水柱の上部1mに限られているにしても、自然分散だけでも海洋環境が分散油に曝されることになる(図3)。12〜48時間経って乳化が進むと自然分散過程は著しく遅くなった。分散処理剤をフォーティーズ原油のエマルジョンに使用すると、最初のときは分散処理剤がエマルジョンを分解する傾向があったが、その後の何回かの追加の散布では分散した油の濃度を増大させた(図4)。この事はフォーティーズ原油を用いて以前北海で行われた試験(Lunel及びLewis 1994年;Walker及びLunel 1995年)、分散処理剤を用いた作業により油中水エマルジョンを分解し分散させることに成功した他の北海原油を用いた試験(Lewis他1995年;Brandvik他 1995年)と一致している。分散処理剤を使ってエマルジョンを処理する際には船舶による海面油の性状の監視は非常に重要であった。なぜなら、航空機からの目視による観察をもとにしてエマルジョンの分解の程度を明確に示すことは非常に難しいからである。NETCENの科学者達は、分散油の濃度が処理の直後にはそれほど大きくは上昇しなかったが、分散処理剤の解乳化効果についてMPCUに報告することができた。

 

分散油の希釈速度の監視

初期における水柱の中の油の濃度の監視は分散処理剤を使った作業の有効性を判定することに焦点を絞って実施された。NETCEN監視プログラムによる証拠は、分散処理剤が海面から油を取除く上で効果があることを示していた。特定の汚染事象によって生じる危険性は汚染物質の濃縮に由来する毒性と高い濃度に曝されている時間との組合せである。環境上不利益になる危険性は水柱の中で

・急性の毒性があり、

・商業上重要な魚介類を長期間にわたって汚染する、

油の濃縮が発生するおそれがあるということである。

毒性の影響があると認められる油濃度の限界値については多くの議論がある。主な二つの問題として、まず第一に油の種々の成分がそれぞれ非常に異なる毒性効果を持っている(ベンゼンやキシレン等の軽い芳香族化合物は最も重大な影響を与える)こと、第二に異なる生物種と生命段階により分散油に対して広範囲の異なる耐性を持っていることがある。米国は油流出に対する対応策の一つとしてますます分散処理剤の使用を考慮してきているということから、1995年に米国で分散処理剤の使用を含みとした研究会が行われた。この研究会では分散油の潜在的毒性に関する懸念により、大規模な油流出に対する対応策としての分散処理剤の使用が制限されていると発表された。この研究会には油流出の分野の主要な研究者達の多くが参加していた。この研究会の結論の一つは「これまでに分かった急性(短時間内)の毒性に関するデータはl0ppm以下の濃度の分散油を含む水柱に2〜4時間継続して曝されても生態上有害な影響は予想されないという結果を支持する」というものであった。

シー・エンプレス号事故の際、分散処理剤を用いた作業中に分散油の濃度が10ppmを超えたのは、局所的でしかも短い時間だけであった。したがって急性の(即時的な)毒性の影響について言えば、初期の自然拡散と分散処理剤散布によって生じた分散油の濃度は、環境上わずかな影響しかもたらさなかった可能性があり、又、濃度は急激に1ppm以下に下がったと思われる。1996年6月までには、水柱の中の油の濃度は、全汚染区域で、従前のレベル(1〜l0ppb)に戻った。

したがって、分散油の濃度(急激に1ppm以下に希釈された)は環境に対してわずかな影響しか与えなかったと思われる。シー・エンプレス号環境評価委員会(SEEEC)の中間報告では、分散油がもたらした主な

 

 

 

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