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的効果について流出時の量的データを集めることは不可能であった。噴霧処理作業において注目すべき特徴は、噴霧パターンを指示するために噴霧用航空機の上方にリモートセンシング航空機を配置して非常に有効に目標を設定することにあった。この方式の作業は英国において十分に試験され、実施されており、特にDC3型航空機を使って幅10〜20mという狭い油の帯を目標として有効にとらえることができる。446tの分散処理剤が使われたということは、分散処理剤1tあたり47〜73tの油、平均約60tが分散したことになる。このことは分散処理剤による作業が大変効果的であったことを明らかに示している。

したがって、もしシー・エンプレス号事故に際して分散処理剤が使われなかったならば、実際に海岸線を汚染した推定10,000〜15,000tのエマルジョンではなく、72,000〜120,000tのエマルジョンが南ウェールズの海岸線を汚染したものと思われる。そうなった場合には明らかに鳥類6,900羽の被害がかなり増大したであろうし、潮間帯は厚いエマルジョン層でより長期間にわたって覆われ、作業班が4月初めの復活祭までに観光用浜辺を再開するのは殆ど不可能だったであろう。

 

燃料重油の動向についての概観

燃料重油(HFO)は大半の船舶用燃料として使われている。したがって、燃料重油の流出は例外的なことではない。ナホトカ号流出事故を含めて世界中で得られた経験から、燃料重油の流出が体積の点で最大規模の流出ではないことが多いにもかかわらず、燃料重油が容易に分散及び、生物分解しないため、流出の影響は重大なものとなる可能性がある。シー・エンプレス号から流出した燃料重油について行われた実験室での風化実験では、およそ2〜5%しか蒸発しないということが分かっている。これまでの一回の経験からも、燃料重油が新品であっても粘性が高いことから自然分散するのは5%以下であると予想される。したがって、海面から油の回収が行われない場合には、流出燃料重油のうち90〜95%が典型的に海岸線を汚染するであろう。

しかし、シー・エンプレス号油流出事故における燃料重油の正確な動向は、シー・エンプレス号が座礁している間に燃料重油がミルフォード・ヘブン港から外部に流出したのか(船のゲージによると230t)、あるいはミルフォード・ヘブン港内の桟橋周囲に留まっていたのか(250t)によって左右されることになる。2月15日から22日までの間にミルフォード・ヘブン港の入口に流出した燃料重油は、フォーティーズ原油と同時に流出したものと見られている。油同士は容易に混じり合うから、この燃料重油はフォーティーズ原油と混じり合い、海面にある油混合物の性状に影響を与える可能性がある。しかし、この燃料重油が油混合物のうち僅かな割合(平均して0.3%)しか占めていなかったため、混合物の性状はフォーティーズ原油の性状に左右されたものと思われる。

ブレア号事故の際には貨物原油の中に同様に燃料重油が混合した(それに加えて海が荒れていた)が、燃料重油は自然分散により完全に海中に分散したと説明された。原油が混合していなければ、例えブレア号のように風の強い条件の時でも、流出した燃料重油による海岸線への影響があったかもしれない。

しかしながら、2月22日にミルフォード・ヘブン港内に流出した250tの燃料重油にはフォーティーズ原油の流出は伴っていなかった。この燃料重油はミルフォード・ヘブン港内の大半の海岸線に沿って汚染した。油汚染における燃料重油の割合は、殆ど全てが燃料重油であった場合(Pwllcrochan)からGelliswickにおけるように全体の約3分の1を占める場合までの範囲があった。燃料重油による油汚染のレベルの概算は、ミルフォード・ヘブン港内の海岸線の長さ、およそ50km、をもとにして求めることができ、代表的な油汚染レベルは1kmあたり5〜7tである。

燃料重油が引続き存在するということは、その殆とが原油と混じり合っていないミルフォード・ヘブン港内において、海岸線での汚染のレベルがフォーティーズ原油よりもかなり高いということを意味する

 

 

 

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