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緊急荷卸し作業:

”アリサン号”が燃料油400tとディーゼル油30tを積んでいることがSFTに通報された。船が座礁した時点では約100〜150tが洩出すると予測された。この情報は早い時機に乗組員と共に船から脱出した船長からもたらされたものであった。この情報は正しくないことが判明した。船のタンクの検査や提出された別の情報に基づいて、船が700t近い燃料油を搭載していると計算された。そのためこの段階では、船が破損し始める前に、緊急に荷卸し作業を手配することが極めて重要であった。

緊急荷卸し作業はノルウェー海運局の責務である。上記事故のような状況下では、海運局の代表がSFT作業本部に参加することになる。緊急荷卸し作業用の機材は海岸沿いの3ヵ所に保管されており、必要に応じヘリコプターによっても現場に搬入することができる。

”アリサン号”の場合には、緊急荷卸し作業は極めて複雑であった。船は他の船舶が横付けできない場所に座礁していた。悪天候のために100m以内に近づくことはできなかった。唯一の方法はヘリコプターによってポンプとホースを船上に運ぶことであった。次の問題はいかにして燃料油タンクに到達するかであった。一部のタンクは機関室経由でしか達することができなかった。船体が何時破損するか分らない状況下で、これは全く危険な作業であった。しかし、作業は成功し、520tの燃料油を船からポンプで抜き取ることができた。この作業の準備に2日間を要した。気象条件の回復待ちに3日間を費やし、更にポンプによる抜き取り作業に2日間かかった。この作業で、トランスレック型の油回収システムが使用された。

海上における油の回収:

政府の機材・人員の動員は、座礁の通報後直ちに開始された。通報の2時間後にSFTの代表が船から状況を視察することができ、通報から5時間後には最初のオイルフェンスを展開することができた。

荒天のために外洋用のオイルフェンスのみが使用された。三つの別々のシステムが各200mの外洋用オイルフェンスと共に使用された。12時間後には四組のシステムが使用された。座礁時には、暴風が吹き荒れ、波高は約5〜6mであった。このような天候下では、オイルフェンスは全く役に立たない。SFTの経験によれば、外洋用のオイルフェンスは波高が3〜4mまではかなり役に立つ。しかしオイルフェンスは1kt以上の速力で曳航してはならない。さらにSFTは、システムを時には向きを変え、風や波と一緒に動かさなければならないことを経験上知った。荒天下では、オイルフェンスで包囲された油の回収は困難になる。一つのシステムのオイルフェンスと回収装置は同一の天候、風、波の条件に対して設計されたものであることを確認することが重要である。更に機材は柔軟性に富み、取扱いや手入れが容易で、同時に頑丈であることが重要である。一般論として、油をオイルフェンス内に包囲、保持することができれば、油を回収することも可能であるということができる。この作業においては、ロープモップ式の回収装置とフォックステール型やトランスレック型システムが使用された。オイルフェンスの曳航による油の濃縮度は低いので、教組のオイルフェンスシステムに対して1基の回収装置で十分である。4時間の作業で、10tの油が回収され、24時間後には27t回収された。残りの油は海岸線に達してしまった。

 

乳化した油

乳化した油の回収についてのSFTの経験は、主として北海での実海域試験に基づくものであり、これは40〜70%の水を混ぜて安定した油中水エマルジョンの状態にした比較的少量の原油を散布したものである。又"アリサン号"の事故でのように、高比重の燃料重油が30〜40%の水と混合したものを処理した実際の作業経験も有している。

 

 

 

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