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今日への適用: 接近不可能な岩場の環境において、アラスカでの洗浄のために開発された浄化技術は嵩のある油を効果的に除去し、それによって生物種を更なる汚染から守る手段である。

バルディーズ号油流出事故への生物修復の適用は、この流出油浄化技術に対する国際的な関心を高めるきっかけとなった。カナダ、ノルウェー、フランス、英国、米国でそれ以来多くの追跡調査が行われたが、全体としてプリンス・ウィリアム湾での知見を確認するものであった。生物修復は今後も海岸線の環境からの油の除去を促進するための魅力ある選択肢の一つとなっている。しかし、生物修復は主に、海面直下の油を含めて、嵩のある油を除去した後に残る油を除去するのに一番効果がある。したがってこの方法の主な利点は浜辺の外観が急速に改善されることである。

第二に、微細沈殿物の濃度が高いと、油の除去という意味で急速に回復する可能性がある。油の流出した区域で自然発生する微細沈殿物のサイズと特性を明確にすることができれば、浜辺が復旧するのに要する時間がもっとよく分かるようになる可能性がある。微細沈殿物の添加が自然の浄化作用の促進に有効かどうかを判定するための試験が現在行われている。エクソン社の科学者達は最近この技術の米国特許を取得した。

化学的海浜浄化剤は水での洗浄の効果を向上させることにより油で汚染された海岸線の浄化を容易にすることができる。バルディーズ号以降の油流出事故において、COREXIT 9580は当初の期待以上に効果を示した。この浄化剤はプエルトリコの浜辺でNOAAによって試験され、又テキサスとカナダの海岸線の浄化にも使われてきた。オンタリオ州にあるカナダ政府の研究所は、COREXIT 9580が現在使用可能な浄化剤のうちで最も効果があるということだけでなく、カナダの毒性試験生物種であるニジマスに対して最も毒性が低いということも確認した[2]。この浄化剤はアラスカの浄化期間中に開発されたもので、そこでは実際には使用されなかったが、現在はカナダでの使用が許可されている唯一の海浜浄化剤である。COREXIT 9580は又植物に対しても無害であることが示されている。マイアミ大学とルイジアナ州立大学の教授達によって行われた試験では、油浸しになったマングローブと沼地の草を浄化できる数少ない選択肢の一つであることが示されている[13][11]。この浄化剤は特に水だけでは洗浄が困難な重油の流出時に特に効果がある。

 

まとめ

エクソン・バルディーズ号油流出は石油業界で最良の海上安全記録の一つを持つ石油会社に降り懸った不運な事故であった。この事故は、常時厳重な警戒を続けていなければ、油の流出がいつ誰にでも起こり得るものである、ということを証明した。それはエクソン社のみならず米国の石油業界全体にとっても重大事件であった。予防が最優先課題であることは明らかであり、エクソン社は油の流出の危険を少なくするため、そして事故対応能力を強化するために、多くの具体的な措置を講じてきた。その後、新しいエクソン社の方式が実地に適用され、それまででも驚異的な記録であった油流出率を更に低い値に下げた。米国では、エクソン社の油の水への流出め総件数は1990年と比べると60%も低下した。1990年から1995年までの間にエクソン社の船から流出した油の量は250ガロンにすぎず、これは米国の船舶からの総油流出量の0.01%以下に相当する。

バルディーズ号の事故の経験は危機管理に関して幾つかの重要な教訓を生み、油流出を処理する新たな技術的選択肢を幾つか提供した。重要な主旨を下に掲げる:

・ 時を得た有効な措置−緊急時に必要とされる種類の措置−は委員会等では講じることはできない。問題点を比較検討し、不一致に対処し、総合的な純環境益を念頭に置いて時宜にかなった措置を強制することのできる者が担当しなければならない。

 

 

 

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