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同省は分散処理剤の使用に先だって近隣の漁業組合との調整、交渉を行う。このような交渉は沿岸漁業区域と海中養殖区域の場合には適している。しかし油が深い沖合にあるときには、日本も、他の諸国が採用しているような事前許可方式を採用し、時間の浪費となる諮問の必要なしにそれら海域での分散処理剤の使用を許可する明確な権限をMSAに委ねることを検討するのが良いだろう。

 

海岸線浄化の革新

油がプリンス・ウィリアム湾とアラスカ湾の海岸線に達した後、エクソン社は政府及び現地のグループと協力しそれらの海岸線の浄化に加わった。この浄化作業は地理的及び生態学的要因によって複雑化した極めて大がかりな任務であった。1989年のピーク時には、この作業は11,000人以上の人を巻き込んだ。およそ6,000kmにわたる海岸線が評価チームにより調査され、これらの評価チームが地形学、生物学、考古学、油汚染に関する情報を生成し、これが後の地域ごとの処理計画に実を絡んだ[21]。プリンス・ウィリアム湾外の海岸線油汚染の大半は非常に軽いもので、散在するムースやタールボールが認められたが、これらは手作業(シャベル、バケツ、手持工具)により除去できた。プリンス・ウィリアム湾内の油汚染はずっと深刻で、油まみれの海岸線は油除去のために水洗浄が必要であった。全関係団体(14組織に及ぶ)と油流出に関するコンサルタントは、堆積した油を海岸線から取除いて、油が再び海面に浮遊して、すでに汚染された場所以外の海岸線や野生動植物を更に汚染されたりするおそれを抑えようということに合意した。更に積極的な浄化法の中には、例えば熱湯を使った方法等は他から批判された。しかし、潮間帯の生物がすでに油によって汚染されていたこと、浜辺を浄化する決定に関与した全関係者にとっては、湾を利用する他の野生生物に対する影響を最小限に抑えるために油除去を行うことが最重要課題であったことを認めるべきである。

今回の流出事故において浄化範囲、浄化方法、浄化優先順位を決定するのに純環境益評価(NEBA)の考え方がはじめて利用された。純環境益は全ての要因を比較考量し、環境全体に対する悪影響を最小限に抑える措置の方向を定めることにより決定される。最終的には2,400kmにわたる海岸線が浄化された。中程度以上に汚染された海岸線400kmで使われた主な浄化方法は、温水又は冷水、あるいはその両方を使って岩から油を洗い流すというものであった。油は、オイルフェンスで囲った湾内に洗い流され、回収装置によって取り除かれ、その後の分離と処理に回された。

安全上の配慮から、冬の暴風雨襲来に備えて、作業を9月半ばまでに終える必要があることが合意された。この理由で、エクソン社は浄化過程を速めるために、多くの革新的な方法を試すことにした。エクソン社はおよそ30年間にわたって積極的な油流出対応研究計画を支援してきたが、これは業界では最大規模である。エクソン社は、自社内の専門家達に対し、浄化速度を速めるための革新的な方法を提供するよう要請することができた。これを達成するための一つの技術は"maxi-barge"と呼ばれる有用な機械装置であった。この特注のバージは乗員50人、長さ約10,000ftのオイルフェンス、幾つかの油回収装置、燃料タンク、貯蔵タンク、発電器、水加熱器を搭載していた。多くは徒歩で近づけない海岸線を処理するための特殊な設備をも備えていた。”omniboom”と呼ばれるこの装置は、建設現場でコンクリートをポンプ移送するために通常使われる装置を改造したものである。これらの装置は、プリンス・ウィリアム湾でよく見られるごつごつした岩の多い海岸線にとって好都合であり、近づきにくい区域を安全に浄化するのに役立った。

第二の革新的な応用は生物修復(bioremediation)であり、これは米国環境保護局と共同で実施した。今回のシンポジウムで別にNOAAのDr.A.Mearnsによって扱われているこの考え方は、油分解作用をもつ土着の微生物に栄養剤を添加することにより活性化して油の自然分解を加速させることを基礎にしている。エクソン社は1989年から1991年にかけて生物修復の応用に関して1,000万ドル以上を投入した。エクソン社の計画の最

 

 

 

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