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ていれば、暴風雨による付加エネルギーが油の海中への分散作用を助け、更に潮の流れが油を外洋に運び、そこで油が更に希釈されるため、未処理油層よりも有害さを更に低下させたと考えられ、分散処理剤使用の絶好の機会であっただろう[4]。

今日への適用: 米国では、バルディーズ号油流出事故以来、分散処理剤の使用に対する姿勢に大きな変化が生じている。1997年の末までに、米国の大半の沿岸州で分散処理剤に関する事前許可地域が指定されると見られている。つまり、特定の条件が満たされれば、他の政府機関や漁業従事者等の他の利害関係者に諮ることなく、現場指揮官が分散処理剤使用を承認できるのである。我が社は使用できるあらゆる対応法をできるだけ時宜にかなったやり方で使用することを強力に支持している。しかし我々が特に分散処理剤を支持するのは、大規模な油流出事故の際、事実上分散処理剤しか対応手段がない場合があるからである[5]。分散処理剤は航空機により散布されるから、所定時間内に処理できる区域は、最高速力要件と悪天好条件によって制限を受ける回収装置船団とくらべ、10〜40倍にもなる。これは特に、油流出現場が沖合致マイルにある場合に言えることである。更に、我々は、バルディーズ号の事故のときのように、有効性を評価するために無駄な時間を費やして微妙な対応の絶好の機会を逃すようなことは賢明でないと考えている。米国沿岸警備隊は、現在では分散処理剤を積極的に使用すべきであるとの考えを持っており、メキシコ湾に関しては油流出事故発生後5〜6時間以内に分散処理剤を散布するとの目標を設定した。

その他、最近の分散処理剤調合の進歩により、最新の分散処理剤はより広範囲の油に対して有効となり、試験の必要性がこれまでよりも少なくなった。例えば、エクソン社がバルディーズ号事故後に委託した新たな研究活動の一環として開発したCOREXIT 9500は、油に拡散流動性さえあれば、最も比重の高い燃料重油でも分散させることが可能である[6]。更に、従来の48-96時間試験結果に基づいて分散された油の悪影響が懸念されていたが、この点の見通しは明るくなった。今日の分散処理剤の調合は、世界中の台所で日常的に使われている一般的な洗剤よりも毒性がずっと低いものが多い。海洋環境において、接触は比較的短時間であり、海洋生物種を試験溶液に長時間接触させておく従来の毒性試験は適用されない。より適切な試験が開発されてきており、これらの試験によると、毒性の影響は従来の試験で予測されていた値よりはずっと低い100分の1程度であることが示されている[7]。

 

対応効力の管理

バルディーズ号油流出事故発生直後の数日間、行動決定過程において多くの関係者が関与したことが問題となった。米国においては、国家緊急防災計画で米国沿岸警備隊を海上油流出に関する連邦現場調整者(F0SC)に定めている。しかしこのFOSCは一方的な決定を行う権限を持っていなかった。海面への油流出等の緊急事態が生じたとき、決断力と決定の迅速さは対応作業を成功させる上で非常に重要である。事故に備えて緊急防災計画を策定する際にあらゆる見方を考慮できるよう、緊急事態が起こる遥か以前に、最寄の町、州、漁業従事者グループ、環境関連組織等から情報を得ておくべきである。危機的状況の際には、多数の関係者たちの様々な、そしてしばしば相反する利害を比較調整することのできる唯一の権限機関を設定すべきである。緊急事態後の段階(即ち海岸線浄化)で全関係者が関与するというのは適切であるかもしれないが、油に対する対応等のように、時間が非常に重要であるときには、必ず主導機関が指揮を執って迅速に最終決定を下さなければならない。米国では、主導機関は沿岸警備隊であり、英国では、英国沿岸警備隊の一部門の海洋汚染対策部隊(MPCU)である。

今日への適用: 日本での主導機関は海上保安庁(MSA)である。しかし日本では大規模な油流出事故の際には15以上の国家政府機関が海上保安庁と協力して作業する。これらの政府機関の一つは農林水産省であり、

 

 

 

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