ケースを2、3取り上げて紹介する。
1) 中国:上海、長江の港湾、航路、水運開発
中国は人口が多いため一人当たりのGDPこそ他国と比べて少ないものの経済の絶対的規模は大きく、港湾のような大規模な投資を必要とするプロジェクトを推進する力は大変なものであるといえる。よく知られている三峡ダムの建設などは長い期間と莫大な資金を要するプロジェクトで、中国だからこそ可能な試みである。港湾セクターにおいても中国には数多くの開発計画があり、大変興味深いものもあるが、ここでは長江沿岸港湾水運システムと長江の河口航路の改良プロジェクトについて簡単に紹介する。
図-6は、上海から三峡ダムを経て重慶に至る長江の2,850kmの区間を示したものである。図上に水運上主な拠点間の距離と利用可能な水深を示してある。例えば、上海、南京間は440kmで水深は7m、武漢までは最小水深4m(夏季は7-8m)ということになる。現在、中国では長江の上流地域の経済開発を促進し、上海を中心とする下流地域との経済格差を是正するため、港湾航路を整備し長江の水運をより活発にすることを考えている。
そのために経済特区の設置など種々のサブプロジェクトが検討されているが、そのうちの一つに長江の中上流から直接外洋に出てコンテナを輸送する、いわゆる直航船による航路の開発がある。現在は長江の水深に限界があるため、上流からは喫水の浅いバージで上海まで回航し、ここで外航船に積み替えて他国の港湾に至るシステムが主流であるが、直航船を就航させることが出来れば、コストを含む総合的なサービス水準を大幅に改善することが出来、上流地域への産業立地環境の向上に大いに寄与すると言うわけである。
参考のために図-7に検討の対象となっている浅喫水の河川海上両用のコンテナ専用船のモデルを示す。いろいろなタイプが研究されているが、300TEU積で喫水3.5mをクリアーし、時速12ノットで航行できる船が有望視されている。この船を用いた場合、少なくとも武漢までは直航船を就航させることができると言うことになる。比較的下流の地域には現在すでに数隻の直航船が就航しているが、このアイデアを上流郡にわたって本格的に実現するためには航路の安全、季節変動の大きい水面に対応出来るパースや荷役機械の設計など解決すべき課題が多い。しかし、建設中の三峡ダムが完成すれば、水面の安定がある程度期待出来、長江水運の可能性はさらに高まるものと期待されている。
また、長江の河口は、上流から運ばれてくる河川流下土砂(年間10億平方メートルと言う説もある)によって水深が浅く、干満の差を利用してもせいぜい8から9m位で、大型のコンテナ専用船を受け入れることが出来ない。中国ではこのような事態を改善するため研究を重ね、航路の両側に長大な潜堤を設けて浚渫することを考えている。浚渫は三段階に分けて最終的には12から13mの航路を確保する予定といわれている。潜堤の長さは50kmにもおよぶ規模で、維持浚渫がどの程度になるのかも想像がつかないが、上海港の発展を考えると、今のままの航路では大型船のメリットが生かせないため中国にとっては何としてでも実現したいプロジェクトではないかと思われる。
図-8に示すのは、フィリピンのマニラ近郊にあるスービック湾の位置図とその区域である。