ここは旧米軍基地の跡地で、この区域を港湾と空港を持つスービック湾特別経済フリーゾーン(SBF)として一体的に開発整備しようと言うものである。ここはもともと海軍基地だっただけあって波の静かな水深の深い入り江にあり、図-9に示すように、船舶の係留施設2,700m、滑走路2,744mを持つ空港、ドライドックなどのインフラを持っているが、今後、産業の立地を促進するため、コンテナ専用のターミナル、多目的バースなどの整備を進める予定となっている。このため、JICAの協力によって2020年を目指したマスタープランの作成および、短期計画に対するFSが行われることになっている。
東アジアの諸国には、このような経済特別区を用意して世界の企業を誘致し、その国の経済の発展や、地域の活性化を図ろうとするプロジェクトが数多くあるが、全てが成功しているとはとても言えない状況である。言うまでもない事だが、これらのプロジェクトに欠くことが出来ないのは港湾、航路、空港や道路などの物流インフラの整備であるが、これらの施設は一般に多額の初期投資が必要な上に、投資の懐妊期間が長いため、経済的余裕のない国ではなかなか思うようにいかないことが多い。
4. 東アジア諸国の港湾開発の展望と課題
(1)港湾開発の需要とその意義
前述したように、世界全体として各国の間のいろいろな垣根が取り払われ、いわゆるボーダーレスの時代を迎えつつある中で、とくに経済の発展が著しい東アジアの諸国では、コンテナ化の進展、船型の大型化、港湾管理運営の効率化の要請、老朽化陳腐化した港湾施設の維持改良など、港湾セクターの強化の要請は極めて高いと言える。とくに、海上コンテナの取り扱い個数は、2010年には全世界で、4億7千万TEU(1995年:約1億6千万TEU)、東アジアで約2億5千万TEU(1996年:約7千万TEU)に達すると言う予測で("The World Port Container Market to 2010":Ocean Shipping Consultants Ltd.)もあり、急速に伸びる需要に対する港湾整備は緊急の課題となっている。
一方、相対的に所得の低い諸国では、鉱産物や農産品のような一次産品あるいは日常生活に欠かせない生活物資などを取り扱う地方港湾や漁港の整備すら十分に手当て出来ないところがまだ沢山残っており、いわゆるベーシックヒューマンニーズに対応する港湾の整備もまた重要な課題になっている。紙面の関係で細かく解説できないが、最後に、東アジアの諸国でこれらの港湾開発のニーズを満たすに当たって取り組むべき主な課題について触れる。
(2)港湾開発に係る基本的課題
図-10に主要な課題を示す。先ず、第一は、何といっても資金調達の問題である。程度の差こそあれ、港湾整備資金の調達に困っていない国はない。特に、経済開発が未熟な途上国で工面できる公的資金は極めて限られており、先進国からの援助か、民間企業それも海外から来て立地してくれる企業の資金をあてにしなければどうにもならないケースが多い。このようにして多くの開発途上国では、いわゆるBOTといった形式による民間資金の導入を図るケースが増えているが、資金調達に目を奪われるあまり、大切な国土を切り売りするような結果や、極端に特恵的な条件で港湾の一番大切な場所を売りに出すようなことにならなように十分気をつけることが大切である。この場合、苦しくてもその国の公共事業としてやるべきことは公的援助に、ある程度たよってもきっちりと実施すると言った国の姿勢がとくに肝要であると言えよう。
この問題は大変重要で、このテーマだけで長い議論が必要であるが、ここではこの程度にして、次のテーマである、河川河口の浚渫について述べる。東アジアの国々の港は、日本や韓国、台湾などを除くと河川の沿岸や河口に位置するものが多く、船舶の大型化に必要な水深を確保するのが困難なケースが多いと言える。その背景には技術の問題と、金の問題があり、この両者は深く関係している。
古くから港湾技術の蓄積を持つ先進国の多くは、東アジア諸国に見られるような膨大な流量と流下土砂の多い大河川を持っていないところが多く、未だに複雑な河川、河口水理を克服して安価で、確実な浚渫を行う技術を確立するにはいたっていない。長江、メコン河、イラワディ河、ガンディス河、バルト河のなどにある港湾は全てその大水深化に悩んでおり、それぞれの国のもつ歴史的な知恵と技術でそれなりの対応を行ってきているが、昨今の急激な貨物流動の増加と、船型の大型化を受け入れるだけの技術も資金もないのが現状である。河川や河口は生き物の様なもので、そう簡単には大規模な浚渫が可能になるとは思われないが、技術開発のポテンシャルの高い先進国と共通の悩みを抱える国々が協力すれば、埋没の多い河川や河口港湾がその大水深化を諦めなくても済むようになるのではないかと思われる。効率の悪いフィーダー輸送を将来にわつたて続ける社会的コストと、少々の維持浚渫を覚悟の上で河口の航路を大水深化することのコストを比較して採算を合わせるには、新しい技術の開発とそのための調査研究が是非とも必要であると思う次第である。
図-10にはこの他、特にコンテナ埠頭の運営の効率化、港湾開発と環境保全との調和の問題、誰が環境保全のコストを負担するのかと言った問題、重複投資と過当競争を防ぐためのこの地域全体としての港湾施設の供給量とその配置のあり方、と言った重要な課題が列挙してあり、まだまだ議論すべき話題も沢山あるが、又の機会に譲りたい。大変大きなテーマを少ない紙面で解説すると言うのは真に無謀なことで、まとまりのない説明になった事をお許し頂きたい。