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ブラジルと日本の

港湾とウォーターフロント

 

アイルトン・シャビエル(*)

 

「港から海が見え、街が見え、生きる喜びを再発見できる。」

近年多くの国では、国際化時代の常として、港湾に関する議論が俄然注目を浴びている。

この報告書は、1997年11月に日本の主要ウォーターフロント・港湾プロジェクトを視察した際に書き留め、解釈したものをもとにした考察である。当時、香港や日本、「アジアン・タイガー」諸国といった強力な経済国を含め東南アジア諸国では、国際貿易の混乱による大きな不安が渦巻いていた。

訪問した日本のプロジェクトを、リオデジャネイロで進行中のプロジェクトと比較した。ブラジルは今、文字どおり建設中で、来世紀にその広大な国土と豊かな天然資源にふさわしい国になるための条件は何かを模索しつつ、変貌を遂げようとしている。リオデジャネイロは、そのブラジルの文化的モデルと考えられている都市である。

ぜひこれからの参考にしたい、あるいは励みにしたい成果がいくつか得られた。それら興味深い結論は、新しい政策の構築を助け、国民生活の質の向上と国家経済の振興のため戦略的に重要なプロジェクトをデザインする際の道筋となるものである。そして何よりも、「通商や文化交流の国境線としての港湾は、経済を浮揚し経済的・社会的動きを促す力を持っている」ということがわかった。

以下は、「新しい完全民主主義政権のもと、大きく変貌を遂げつつあるブラジルの港湾システム」と、「訪日して触れた、最高の『将軍(つまり中央で綿密かつ効率的につくられた計画を政府各省庁が実行するというシステムの象徴)スタイル』で企画・実行されている日本のモデルの数々」とを比較した結果得られた、技術的・経済的理解である。

『将軍スタイル』というような表現を使ったのは、ブラジルと日本のインフラ投資の基本的な相違点に、まず焦点を当てたいと思ったからである。公的資金が豊富で外国の協力や投資を必要としない日本には、自国を世界的経済大国にのし上げてきた戦略的プロジェクトを進めていくうえで必要な、経済的安定と政治的独立があった。

一方ブラジルは、基本的投資のための公的資金不足により、いまだ第二世界国から脱皮できないでいる。そこでブラジルでは、最も基本的な投資を最優先する政策を採っている。港湾システムは、連邦政府予算に何とか組み入れられるよう、努力しなければならない。予算取りでは通常、他の輸送機関(鉄道、高速道路、沿岸海上輸送)や他のインフラ投資(通信やエネルギーなど)、および社会プログラム(保健、教育、住宅、農業)と争うことになる。公的資金の不足から、本来ならば少なくとも初期段階では国が直接開発・管理すべき活動分野においてさえも、外国人投資家や民間投資家に頼らざるを得ないという国情である。1988年憲法施行で導入された新しい制度モデルについては、特にそうである。

公有港湾に対する投資がままならないブラジルの現状を見れば、国際貿易が振るわないこと(日本のマーケット参加が7.2%であるのに対し、ブラジルは0.8%)、工業の競争力が弱いこと、国際貿易のコンテナ取扱い量が少ないこと(年間180万TEUほど)も、幾分説明がつく。ブラジル全国のコンテナ取扱い量の合計ですら、日本の港湾、たとえば東京、大阪、神戸、横浜といった港湾のどれひとつとくらべても少ないのである。

ただ、ブラジルは今まさに発展しようとしているところであり、通貨(レアル)は安定化して、インフレ率も下がりつつあり、生産インフラの近代化が大きく進もうとしている段階である。最近では、港湾システムの完全な近代化と改修が急ピッチで行なわれている。港湾の近代化こそ、ブラジルの国際競争力を強化するために必要なのである。先進諸国との貿易量の拡大は、ブラジル経済にとっても必ずやよい結果をもたらすであろう。

港湾システムの本質を表わす主立った指標のみに基づいて考えれば、結論もまた変わってくるのであろうが、日伯の比較検討の際には「国土面積が大きく異なる割には、両国の人口は近似している」という事実を考慮することが重要である。日本の人口は1億2600万人、ブラジルの1億6100万人とくらべて22%少ないだけである。

 

 

 

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