(4) 空地間通信における伝送遅延について
本報告書の2.1.6章(2-22ぺージ)に記されている通り、DOWNLINKについてのデータ伝送遅延時間は、いずれのサービスプロバイダーを使用した場合でも、平均で30秒程度の遅延での送達が達成されている。また、CNS/ATMシステムにおいて指標とされている、「60秒以内に95%以上のメッセージの送達が行なわれること」についても、AVICOM、ARINC、SITAの全てのサービスプロバイダーにおいて達成されている事が確認された。ただし、一部のメッセージの伝送遅延時間が3分を超える結果を示している事については、さらに改善の努力が必要と考えられる。
一方、UPLlNKメッセージについては本報告書においては評価対象とはされていないものの、メディア・アドバイザリー・メッセージがインターネットワーキングによりサービスプロバイダー間で共有されることにより、メッセージの伝送時間については大きく改善がなされると推測される。さらにメッセージ・アジュアランスにより、送達碓認が完全に行われる事となる。
これらを踏まえれば、空地間通信における伝送遅延については、CNS/ATMシステムの運用において大きな妨げとなる問題は発生しないと考えられる。
(5) SATCOM音声通信について
本報告書の2.2章(2-116、117ページ)に報告されている通り、航空会社とSATCOM音声通信の契約がなされている事業者のGES、または何らかの提携により該当する航空会社にSATCOM音声通信を提供しうるGESにログオンしている場合には、SATCOM音声通信の有効性は十分に確認された。
ただし、それ以外のGESにログオンしている状況での通信状況は全く保証されない。
ログオンするGESについては、機上でもっているテーブルに基づき、プライオリティーの高いGESから順番にログオンする仕様になっている。優先順位の高いGESであってもそのシグナルレベルが低い状況が発生すると、順次プライオリティーの低いGESへとログオンされていく。
従って、なんらかの理由によりSATCOM音声通信を行えないGESにログオンしてしまう可能性があり1、このような場合にSATCOM音声通信が行えない状況が発生し得る点を考慮に入れる必要がある。
1衛星によるデータ通信サービスについて、同時に複数の事業者と契約を結んでいる一方でSATCOM音声通信については、これら全ての事業者と契約を結んでいない場合がある。
(6) 総合評価
本評価試験における以上の各項目の評価を踏まえると、現在のCNS/ATMシステムについては、全体として運用に供するに足るレベルに達していると考えられる。
しかしながら、今後運用を行いながらも、さらにシステム全体としての信頼性の向上、機上装置の操作性や運用方法の改善、データ伝送時間のさらなる短縮への努力を続けていく必要があると考えられる。
4. おわりに
FANS環境下における航空保安システムの充実の基盤となる航空交通管制CNS/ATMシステム基本特性の調査研究を進めてきた。本システムは、航空需要の増加に対応し、航空交通の安全性と効率性の向上を目指すものである。本年度は管制の移管方法、データ通信伝送時間等を詳細に検証し、実運用を念頭に置いた機能確認・試験・評価が行われ、良好な結果を得た。これによって、定期運航をより効果的に行って飛行時間を短縮し、燃料の利用効率を高め、運航コストの低減をはかる上からも、本システムが有効な手段であることが明らかとなった。
ここに得られた貴重な実験・評価結果は、我が国の航空保安システムの運用並びにシステム利用方式に有効に作用し、航空交通管制に対して大きく寄与すると考えられる。CNS/ATMシステムの効果的な発展のための研究活動を将来とも継続して、よりよいFANS環境を形成していくことが重要と思われる。
付録A DOWNLINKメッセージのタイムスタンプの算出方法について
以下に、AFN,CPDLC,ADSの各メッセージのTIME STAMP解析方法を例を挙げて述べる。
(以下で述べる‘受信メッセージ’とは、地上のホストコンピュータが受信する形のDOWN-LINK TEXTを指す。)
AFN
受信メッセージ
AFN/FMHJAL421,.JA8078,,064124/FPON60041E121124,1/FCOADS,01/FCOATC,018219
上記のメッセージ中の下線部分がAFNのTIME STAMP(06:41:24Z)である。
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